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IT業の資金調達を徹底解説!産業構造、資金繰りの特徴、最新動向からひも解く

IT産業は長期にわたって成長を続けてきました。
コロナ禍による社会の変化、DXの推進、AIの発展などにより、今後もIT市場は拡大を続けていくことでしょう。
市場拡大に伴い、IT業界では競争が激化しており、資金調達がうまくいかずに破綻するIT業者も少なくありません。
IT業界で生き残っていくには、IT産業の構造から資金繰りの特徴を知り、最新動向も踏まえて資金調達することが重要です。
この記事では、IT産業の構造、資金繰りの特徴、最新動向と予測を踏まえて、IT業の資金調達を徹底解説します。

IT業の特徴と資金調達

 
企業が存続するためには、資金繰りを回し続ける必要があります。
「倒産」とは手元資金が枯渇し、資金繰りが回らなくなることです。
業績・財務が悪化しても、資金繰りが回るうちは倒産することはありません。
IT業でも、資金繰りを回し続けるためは資金調達が欠かせません。
そこで重要となるのが、IT業の特徴を知ることです。
IT業の特徴を知り、特徴を踏まえて資金調達を考えることによって、資金調達がスムーズになります。
まずはIT業の特徴を、資金調達との関連も含めて詳しくみていきましょう。

IT業の市場規模

 
これまで、IT業の市場規模は拡大を続けてきました。
リーマンショックや東日本大震災など、経済的に大きな変動があった場合、一時的にIT業の売上が落ち込む傾向があるものの、長期的には順調な拡大傾向にあります。
IT業の市場規模が拡大する要因はいくつかありますが、長期的にみられる要因として、ITインフラのクラウドシフトをはじめ、経済環境全般の傾向がIT業界の拡大をもたらしました。
特に近年では、コロナ禍による社会の変化、経済界においてはテレワークが短期間のうちに普及したことにより、IT業の市場規模は一層拡大しています。
個人レベルでも、スマートフォンの普及に伴うサブスクリプションビジネスの拡大は、IT業の大きな成長要因です。
DXの推進AIの進歩などによって、今後もIT業の市場規模は拡大していくと考えられます。
株式会社矢野経済研究所の発表 (2022年・最新版)によると、国内IT市場の大まかな推移と予測は以下の通りです。

  • 2018年度…124,930億円(前年度比102.8%)
  • 2019年度…128,900億円(前年度比103.2%)
  • 2020年度…129,700億円(前年度比100.6%)
  • 2021年度…135,500億円(前年度比104.5%)
  • 2022年度(予測)…140,900億円(前年度比104.0%)
  • 2023年度(予測)…144,000億円(前年度比102.2%)
  • 2024年度(予測)…146,000億円(前年度比101.4%)

IT業のビジネスモデルと資金調達

 
IT業のビジネスモデルは、他の業種とは大きく異なります。
IT業は元請けと下請けによって成り立つ「多重下請構造」です。
同様の構造を持つ業種は、IT業のほかに建設業があります。

IT業の元請けとは?

 
元請けとは、発注者から直接仕事を請け負うIT業者のことです。
例えば、システムを開発したいと考えているクライアントが、IT業者に対してシステム開発案件を直接発注します。
このとき、直接受託するIT業者が「SIer(エスアイヤー)」とも呼ばれる元請けです。
一般企業のほか官公庁などがクライアントにあたり、SIerには富士通・NEC・日立製作所などの大手IT業者が名を連ねます。
クライアントから受託後、SIerは案件の上流工程(システムの要件定義、システム設計など)を行い、その後の工程(実際の開発業務、システムのテストなど)を下請けのIT業者に委託するのが一般的です。
このように、IT業でも建設業でも、元請けはプロジェクトの統括的な役割を担っています。

IT業の下請けとは?

 
下請けは、元請けがクライアントから受託した業務を請け負うIT業者です。
関与する下請けの数や種類は案件によって異なりますが、複数のIT業者が分業して請け負うのが一般的です。
元請けから直接委託を受けるIT業者を「一次下請け」、一次下請けからさらに委託を受けるIT業者を「二次下請け」といいます。
このように、IT業は「発注者→元請け→一次下請け→二次下請け…」という多重的な構造を持っています。
例えば、システム開発を発注する場合の構造は以下の通りです。

  • 1.クライアントから元請けに対し、システム開発案件を発注する。
  • 2.元請けからハードウェアベンダーやパッケージベンダーに対し、開発したソフトの販売を委託する(一次下請け)
  • 3.元請けから通信会社に対し、開発したソフトの運用面を委託する(一次下請け)
  • 4.元請けからソフトウェア開発会社に対し、実際のシステム開発を委託する(一次下請け)
  • 5.一次下請けのソフトウェア開発会社から複数のソフト開発会社に対し、開発業務の内容に応じて委託する(二次下請け)

多重下請構造と資金調達

 
IT業は、上記のような多重下請構造によって成り立っています。
多重下請構造は、IT業の資金調達にも大きな影響を与えます。

元請けと下請けの資本規模

 
多重下請構造においては、元請けと下請けの資本規模に明確な差別があり、収益性への影響も顕著です。
基本的に、IT業では資本規模が大きいほど元請けの割合が増加し、下請けの割合が減少します。
参考までに、資本金3000万円~1億円未満の資本規模における、元請け・下請けの割合 をみてみましょう。

  • 元請け…84.1%
  • 一次下請け…59.8%
  • 二次下請け…29.3%
  • 三次以降の下請け…11.1%

これをみれば、元請けほど資本規模が大きく、下請けほど資本規模が小さいことがよくわかります。
三次以降の下請けに至っては、全体の9割近くが資本金3000万円以下の規模です。

小さなIT業者ほど資金調達に苦労する

 
資本規模は、IT業者の資金調達にも影響します。
資本金は返済義務がない純資産であり、会社が自由に使えるお金です。
資本金が潤沢であれば、資金調達をせずに運転資金や設備投資などを賄えるため、資本金は会社の安定性・信用性の指標となります。
逆に言えば、資本金が少ないIT業者は安定性・信用性に乏しく、銀行からの資金調達に苦労するともいえます。
また、多重下請構造では、上位のIT業者(元請け)ほど収益性が高く、下位のIT業者(一次下請け以下)ほど収益力が低いです。
実際に、最下位のIT業者では、受注単価が元請けの3分の1を下回ることも珍しくありません。
このほか、下位層のIT業者ほど受注が不安定になることも、多重下請構造の特徴といえるでしょう。
収益力は返済力に直結するため、収益力が高い元請けは銀行から資金調達しやすく、収益力が低い下請けは銀行から資金調達しにくいといえます。
IT業の収益格差については、詳しく後述します。

IT業の開業率と資金調達

 
IT業は、新規参入が容易です。
これもIT業の大きな特徴であり、資金調達にも影響します。

なぜITは起業しやすい?

 
多くの業種では、開業に伴い設備投資などが必要となり、まとまった初期費用が必要です。
これにより、起業・新規参入に一定のハードルがあります。
一方、IT業は初期費用が少なく、起業しやすいのが特徴です。
極端に言えば、ITに関するスキルとパソコンがあれば起業でき、店舗を構えたり、在庫を抱えたりすることもありません。
少ない費用で起業できるため、創業資金として多額の資金調達をする必要がなく、失敗した際のリスクも少ないです。
それに加え、IT業の市場規模は拡大を続けており、新規参入の余地が大きいのですから、IT業で新規参入が増えるのも自然な流れでしょう。
中小企業庁が2021年に発表した「小規模企業白書」 によると、IT業の開業率は6.1%です。
IT業の開業率は、全産業の平均開業率(4.2%)を大きく上回っており、宿泊業・飲食サービス業(8.7%)、生活関連サービス業・娯楽業(6.3%)に次いで第3位となっています。

起業後の資金調達が困難

 
新規参入が容易であり、実際の開業率も高いIT業は、「起業しやすい」というメリットがある反面、「競争が激しい」というデメリットもあります。
すでに解説した通り、IT業は多重下請構造です。
新規開業のIT業は、安定的に受注するだけの実績がありません。
つまり、競争力が乏しいにもかかわらず、激しい競争にさらされるのです。
業績・財務が不安定であれば、銀行からの資金調達は困難になります。
また、起業後間もないIT業者において、「資本金がいくらか」と「起業後にどれだけ資金調達できるか」はほぼイコールです。
起業後間もないIT業者が銀行から資金調達する場合、融資限度額は資本金の2倍程度となります。
つまり、資本金が少ないIT業者ほど、銀行からの資金調達が難しいのです。
上記の通り、IT業は開業率が高いのですが、その多くは資本規模が小さく、資金調達余力も乏しいと考えられます。
資金調達に行き詰まれば資金繰りは破綻し、倒産へと追い込まれます。
実際に、IT業は廃業率も高いです。
全産業の廃業率3.4%に対し、IT業の廃業率は4.0%となっています。
これは、宿泊業・飲食サービス業(5.9%)、生活関連サービス業・娯楽業(4.8%)、小売業(4.4%)に次いで第4位の水準です。
新規に開業するIT業者は、資金調達が起業成功のカギとなります。

IT業は大都市集約型の産業

 
大都市集約型であることも、IT業の特徴といえるでしょう。
IT業が最も活発なのは東京都で、東京都だけで事業所数の約30%、従業員数の約50%、売上高の約60%を占めています。
このことから、IT業全体の資金調達動向を知るには、東京都の資金調達動向が参考になります。
直近5年間、東京の銀行の貸出金(各年度の期初)と増加率の推移を、全国の推移と比較してみましょう。
2018年から2023年まで間に、東京都の貸出金は208.3兆円から247.8兆円に増加しており、増加率は約20.0%です。
これに対し、全国の貸出金は488.9兆円から571.1兆円へ、約16.8%の増加となっています。
ちなみに、各年度別に比較しても、2021年を除くすべての年度で、東京都の増加率は全国の増加率を上回っています。
東京都の貸出金は全国よりもおおむね高い水準で推移しており、融資による資金調達環境は全国的にみても良好といえるでしょう。
しかしながら、2023年以降、金融機関の融資姿勢は徐々に消極化しています。
今後、大都市集約型のIT業だからこそ、資金調達での苦労が増えるかもしれません。

IT業は労働集約型の産業

 
大都市集約型であると同時に、IT業は労働集約型の産業でもあります。
ITは知識労働の側面があるため、労働集約型ではなく知識集約型というイメージも強いのですが、実際にはそうではありません。
労働集約型とは、労働者一人当たりの設備投資額が低い労働形態のことです。
新規開業率の高さからもわかるように、IT業は設備投資が少ない(=労働者一人当たりの設備投資額が低い)ため、他の業種よりも労働集約型の産業といえます。
AIはITの分野ですが、IT業は他の業種に比べて、AIによって機械化できる範囲が狭いです。
ソフトウェア開発は、その最たる例です。
基本的に、ソフトウェアの開発は機械によってではなく、人の手によって行われます。
設計に基づきプログラミングを行うのも、完成したプログラムをテストするのも、テストの結果に応じて修正を重ねていくのも、基本的には人の手によって行われ、機械で代替できる範囲は限定的です。
だからこそ、IT業では労働力の確保が重要であり、これが資金繰り・資金調達に影響します。
後述の通り、IT業は深刻な人手不足に陥っています。
その中で生き残っていくには、人材確保にコストをかけ、確保した人材に給与を支払わなければなりません。
当然ながら、従業員が増えると労務コストが高まり、運転資金も膨らみます。
賞与の支払いも、資金繰りの大きな負担になるでしょう。
運転資金や賞与資金は銀行から資金調達する必要があります。
「IT業は労働集約型産業で人材確保が命、労務コストとして短期の資金調達が重要」
これは、IT業を営む上で欠かせない知識です。

格差が大きいIT業

 
多重下請構造のIT業は、他の業種よりも格差が大きいといわれます。
特に格差が大きいのは収益力です。
商工総合研究所の「IT産業における中小企業の動向」 によれば、2016年度のIT業全体の売上高は68.8兆円でした。
この売上高のうち、中小企業の売上高は17.3兆円、大企業の売上高は51.5兆円となっています。
つまり、中小企業の占める割合は25.2%に過ぎません。
他の業種と比較すると、IT業の格差が大きいことがよくわかります。

売上高に100倍の格差

 
2016年度の売上高を全産業ベースでみた場合、中小企業が44.6%、大企業が55.4%となっています。
中小企業がやや低いものの、とりたてて格差というほどの差はありません。
IT業の格差は、1社あたりの売上高からみると一層はっきりします。
2016年度のIT業者1社あたりの平均的な売上高は6.14億円です。
しかしながら、中小企業ベースでみた平均売上高は1.59億円、大企業ベースでみた平均売上高は158.34億円。
IT業の売上高は、大企業と中小企業の間に100倍もの差があるのです。

利益の格差は250倍に

 
利益ベースで比較すると、IT業の格差はさらに広がります。
IT業全体でみた場合、経常利益は6.9兆円、このうち中小企業の経常利益は0.8兆円(11.9%)、大企業の経常利益は6.1兆円(71.9%)です。
さらに1社あたりの経常利益は、IT業全体の平均が61.3百万円であるのに対し、中小企業の平均は7.5百万円、大企業の平均は1862百万円。
中小企業と大企業の利益の格差は約250倍にもなります。
多重下請構造の最上位のIT業者と、最下位のIT業者とでは、さらに大きな格差があると考えられます。
売上高や利益の比較から、規模が大きい(収益力が高い)IT業者ほど資金調達が容易であり、規模が小さい(収益力が低い)IT業者ほど資金調達が困難であることがわかります。

個人事業主が少ない

 
IT業は、法人と個人事業主の割合も特徴的です。
総務省・経済産業省の「経済センサス」によると、2016年のIT業者は43,585社、このうち法人のIT業者は41,355社、個人事業主のIT業者は2,230社 となっています。
割合にすると、法人のIT業者が全体の94.9%を占めているのです。
全産業でみると、法人は48.7%、個人事業主は51.3%ですから、法人が圧倒的に多いのもIT業の特徴といえます。
一般的に、個人事業主は法人よりも資金調達に苦労します。
個人事業主は業績・財務が脆弱であり、法人に比べて社会的信用も低いため、信用力を重んじる銀行から資金調達するのは容易ではありません。
したがって、ビジネスローンによる資金調達や、売掛金の早期資金化による資金調達など、銀行融資以外での資金調達が重要です。
その点、IT業は法人が多く、個人事業主特有の事情によって資金調達に苦労することは少ないといえます。
この記事でも、基本的に法人のIT業者を想定して解説しています。

IT業の最新動向と予測

 
IT業の特徴を踏まえて、最新動向と予測についてもみていきましょう。

正社員不足が深刻なIT業

 
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2022年4月) 」によれば、正社員が不足している企業の割合は45.9%となっています。
これに対し、IT業の人手不足は一層深刻です。
正社員の人手不足割合の上位10業種をみると、IT業が第1位(64.6%)となっており、前年同月(2021年4月)比で10.5%も上昇しています。
冒頭でも述べた通り、IT業の市場規模は拡大を続けており、今後さらなる拡大が予測されています。
人材確保が市場拡大に追いつかない状況です。
経済産業省は2030年までに40~80万人のIT人材が不足すると試算しています。

IT業で非正社員が不足しない理由

 
一方、IT業は非正社員の人手不足割合が低く、上位10業種にランクインしていません。
しかし、これは「IT業では非正社員を十分に確保できている」ということではありません。
IT業の業務は専門性が高いため、専門性を身に着けた人材を正社員として雇うのが普通であり、専門性に乏しい非正社員を必要としないのです。
逆に言えば、だからこそIT業では正社員の人手不足が深刻ともいえます。
コストの安い非正社員ではなく、コストの高い正社員を雇うため、IT業では労務コストの負担が大きくなります。
人手不足がさらに深刻になるにつれて、この負担もさらに増大するでしょう。
当然ながら、コスト高に対応するために、資金繰りの改善や資金調達の工夫が求められます。

IT業で倒産件数が増加

 
2023年に入ってから、業種を問わず倒産件数が増えています。
東京商工リサーチが2023年7月に発表したデータ によれば、2023年上半期(1~6月)の全国の倒産件数は4042件(前年同月比32.09%増加)となりました。
産業別の倒産件数をみると、すべての産業で前年同期を上回っており、これは1998年以来25年ぶりのことです。
全産業のうち最も倒産件数が多かったのは、ITサービス業を含む「サービス業他」で、この6ヶ月間に1351件も倒産しています。
2番目に多いのが建設業(785件)、3番目に多いのが製造業(459件)ですから、サービス業の倒産件数が突出していることがわかるでしょう。
倒産の理由を大きく分けると、コロナ禍におけるゼロゼロ融資の返済開始、物価高、後継者難、求人難、人件費高騰などが挙げられます。
このうち、労務コストの負担が大きいIT業では、求人難や人件費高騰による影響が大きかったと考えられます。
IT業の人材不足は、長期的に続くことでしょう。
つまりIT業は、求人難や人件費高騰、それに伴う収益力の低下や資金調達難などによって、倒産のリスクが高いということです。
IT業者が生き残るためには、資金調達がさらに重要になってくるでしょう。

IT業の資金繰りの特徴

 
IT業の特徴と最新動向・予測について詳しく解説しました。
その内容を踏まえて、ここからはIT業の資金繰りの特徴を解説します。

IT業は人件費の負担が重い

 
ここまでの解説でも、IT業の人件費負担について述べました。
実際の負担について詳しくみてみましょう。
一般社団法人情報サービス産業協会の「情報サービス産業基本統計調査(2020年版)」 によると、IT業の売上高人件費率は27.98%です。
これは、他の業種に比べてかなり高い水準といえます。
売上高人件費率がIT業を上回る業種といえば、飲食業や宿泊業などのサービス業ばかりです。
また、IT業の27.98%という数値は加重平均であって、中央値では41.78%にも達します。
調査対象のIT業者301社のうち、売上高人件費率が30%以上40%未満と回答したIT業者は全体の22.6%(68社)、40%以上50%未満と回答したIT業者は全体の21.3%(64社)となっています。
最新動向や今後の予測を踏まえると、IT業では、もともと大きかった人件費の負担が、長期的に高まっていくことでしょう。
当然、資金繰りに与える影響も大きくなり、給与や賞与などの人件費を資金調達できるかどうかが、大きなポイントになるはずです。

IT業はキャッシュフローが厳しい

 
IT業の資金繰り・資金調達を考える上で重要なのがキャッシュフローです。
資金繰りは将来的なお金の流れ(予測)であるのに対し、キャッシュフローは実際のお金の流れ(結果)を表します。
キャッシュフローを構成する要素は、キャッシュインフロー(お金が入ってくる流れ)とキャッシュアウトフロー(お金が出ていく流れ)です。
キャッシュインフローが大きく、キャッシュアウトフローが小さいほど、手元に残るキャッシュ(キャッシュインフロー-キャッシュアウトフロー=キャッシュストック)は大きくなり、資金繰りがラクになります。
逆に、キャッシュアウトフローが大きく、キャッシュインフローが小さいほど、手元に残るキャッシュが少なく、場合によっては手元のキャッシュが流出するため、手元資金の不足が起こりやすくなり、資金調達の重要性と難易度が高まります。
つまり、資金繰りとキャッシュフローは表裏一体です。
キャッシュフローが悪化すれば資金繰りも悪化し、資金繰りが悪化すればキャッシュフローも悪化します。
IT業の資金繰りと資金調達が難しいのは、キャッシュフローに問題があるためです。
大きな原因は、IT業の回収サイトと入金サイクルにあります。

IT業の回収サイト

 
まず、IT業の回収サイトからみていきましょう。
回収サイトとは、下請けのIT業者から元請けのIT業者に請求書を発行してから、売掛金が支払われるまでの期間を意味します。
資金繰りの原則として、回収サイトが長いほど資金繰りが悪化します。
通常、売掛金の回収よりも、買掛金その他の支払いのほうが先行するため、そのギャップを埋めるために資金調達(運転資金)が必要です。
回収サイトが長ければギャップも大きくなり、資金調達すべき額は大きくなります。
これが、回収サイトの長期化によって資金繰りが悪化する理由です。
キャッシュフローでいえば、売掛金の回収がキャッシュインフロー、買掛金その他の支払いがキャッシュアウトフローにあたります。
回収サイトの長期化はキャッシュアウトフローの減少、延いてはキャッシュフローそのものの悪化をもたらします。
このように考えても、回収サイトが資金繰り・資金調達に与える影響は明らかです。
令和元年の中小企業実態基本調査によれば、IT業の回収サイトは1.78ヶ月となっています。
全業種の平均回収サイトは1.23ヶ月ですから、IT業は他の業種に比べてかなり長いことがわかるでしょう。

下請法による保護の限界

 
IT業は元請けと下請けによる多重下請構造であり、下請けのIT業者は下請法の保護を受けています。
下請法では、下請けのIT業者の資金繰り負担を軽減するため、回収サイトにも一定の制限を設けています。
とはいえ、下請法の影響下であっても、IT業の回収サイトが長いことには変わりありません。
下請法は、元請けから下請けに対する支払期日を「60日以内」と定めています。
例えば、ソフトウェア開発案件の場合、「元請けが下請けから成果物を受領した日から起算して60日以内」が支払期日です。
つまり、IT業の平均回収サイト(1.78ヶ月)は、全業種の平均回収サイト(1.23ヶ月)より約半月も長いにもかかわらず、下請法の規制(60日=2ヶ月以内)に何ら違反していません。
多重下請構造においては、元請けと下請けの間に絶対的な力の差(元請け≫下請け)があります。
下請法の規制の範囲内であれば、回収サイトが長期化したところで、下請けは受け入れざるを得ないことも多いです。
したがって、「IT業の回収サイトは基本的に長い」「IT業はキャッシュフローと資金繰りが悪化しやすい」「IT業では資金調達の難易度が高い」と考えておくべきでしょう。

IT業の入金サイクル

 
回収サイト以上に問題なのが、IT業の入金サイクルです。
IT業者が請け負う案件にもよりますが、ソフトウェア開発などは数ヶ月にわたることが多々あります。
そこで問題になってくるのが、どのタイミングで請求書を発行し、売上を回収するかという「入金サイクル」です。
例えば、工期6ヶ月の案件の場合、以下のように入金サイクルの設定はいろいろ考えられます。

  • 1.ソフトウェア開発が完成してからまとめて請求する(入金サイクルは6ヶ月後に一括払い)
  • 2.ソフトウェア開発の進捗に応じて、4段階に分けて請求する(入金サイクルは1.5ヶ月×4回)
  • 3.ソフトウェア開発の着手に先立ち、代金の20%を前受金として受け取り、残りの部分を進捗に応じて3段階に分けて請求する(入金サイクルは着手前に20%を受領、残り80%を2ヶ月×3回)

このうち、最も資金繰りが苦しいのは1のパターンです。
6ヶ月間で負担するコストを、事前に資金調達しておけばよいのですが、それができなければ資金繰りの維持は困難でしょう。
また、作業中にトラブルが発生したり、バグによって受領を拒否されたりした場合には工期が延びるため、コスト負担はさらに高まります。
したがって、IT業の資金繰りでは、2のように分割で支払いを受けたり、3のように前受金を受領したりすることが重要です。
入金サイクルを分割すれば、次回入金までのコスト負担は小さくなり、必要な資金調達の金額も小さくなるため、銀行からの資金調達も容易になります。
とはいえ、IT業では元請けと下請けの格差が大きく、元請けに有利なサイクルを強いられることも多いです。
下請けのIT業者は、入金サイクルがある程度不利になっても資金繰りが成り立つよう、普段から手元資金を厚くしたり、資金調達方法を多様化したりすることが欠かせません。

IT業の売上が安定しない理由

 
IT業の特徴でも解説したように、IT業の売上は規模によって大きな格差があります。
多重下請構造の下位層のIT業者ほど売上が低く、なおかつ安定しない傾向があります。
では、なぜ下請け以下のIT業者ほど売上が不安定なのでしょうか。
原因は、IT業における下請取引の受注方法にあります。

IT業の下請取引の受注方法

 
公正取引委員会が2022年6月に公表した「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」 によると、IT業の下請取引の受注方法には大きな特徴があります。
資本金3億円以下のIT業者が下請けとして受注する場合、主な受注方法は以下の2つです。

  • 1.元々、特定のベンダーの協力会社等となっており、その関係での受注する…全体43.0%、中間下請43.7%、最終下請41.7%
  • 2.代表者・従業員の人間関係(コネ・ツテ)等を通じて受注する…全体32.1%、中間下請30.4%、最終下請35.2%

中間下請・最終下請ともに、この2つの受注方法が80%近くを占めています。

ベンダーとの関係次第で売上が変わる

 
1の方法で受注する場合、売上は非常に不安定です。
ベンダーとの協力関係が堅固であれば、継続的に受注できるため売上も安定します。
しかし、ベンダーとの関係が悪化した場合、受注が減少し、売上が大幅に低下することもあります。
中小IT業者の43.0%は、「ベンダーとの関係次第」という不安定な状況を強いられるのです。
ここから、IT業の利益率が低い理由、資金調達に苦労する理由もみえてきます。
下請け以下のIT業者は、ベンダーとの関係悪化を防ぐためにも、ある程度不利な契約を呑まざるを得ません。
中には、単に「次回以降の受注につなげるため」というだけで、赤字案件を受注するIT業者もあります。
これにより利益率が低迷し、収益力を銀行から問題視され、資金調達に苦労するのです。

コネ・ツテ次第で売上が変わる

 
2のように、中小IT業者の32.1%はコネ・ツテによって受注しています。
これは、裏を返せば「コネ・ツテがなければ受注できない」ということにほかなりません。
例えば、代表者のコネ・ツテで受注してきたIT業者では、その代表者の引退後、後継者のコネ・ツテが弱いために、受注の減少・売上の悪化を引き起こすことがあります。
また、従業員のコネ・ツテで受注している場合は、その従業員が退社すれば受注も急減することでしょう。
経営者自身のコネ・ツテが弱く、従業員のコネ・ツテに依存しているIT業者は特に深刻です。
このような会社では、従業員の権力が経営陣を凌ぎ、社内の統制が取れなくなり、さらなる経営悪化・資金調達難につながる恐れがあります。
コネ・ツテを失い、売上が減少したIT業者は資金調達に苦労します。
一時的な売上の悪化であり、改善の見通しが立っている場合、銀行は問題視しないことも多いです。
しかし、売上悪化の原因が「コネ・ツテの喪失」となると、銀行からの資金調達には大きなマイナスとなります。
コネ・ツテは時間をかけて作るものであり、そのIT業者が売上を回復する(=コネ・ツテを再構築する)までには長い時間がかかる(=長期にわたって収益力が低迷する)とみなされるためです。
したがって、IT業では、コネ・ツテに頼らない受注を増やすと同時に、複数の資金調達方法を確保しておくことが大切です。

IT業の資金調達方法5選

 
IT業の資金繰りの特徴を知れば、IT業に適した資金調達もみえてきます。
ここからは、IT業で使える5つの資金調達方法について詳しく解説します。

IT業の資金調達①銀行融資

 
IT業に限らず、銀行融資は最もポピュラーな資金調達方法です。
IT業においても、まずは銀行からの資金調達を考えるのがよいでしょう。
理想的なのは、銀行から資金調達できる環境を維持しつつ、その他の資金調達方法を取り入れていくことです。
これにより、銀行からの資金調達に依存することなく、その時々で最適な方法で資金調達できるようになります。
さて、IT業が銀行から資金調達する場合、カギとなるのはつなぎ融資と保証付融資です。

IT業の資金調達はつなぎ融資が基本

 
銀行から資金調達する場合、資金使途に応じて名目が変わります。
経常的に必要となる資金調達をするならば運転資金、季節性の変動に合わせて資金調達するならば季節資金、賞与の支払いのために資金調達するならば賞与資金、法人税の納税のために資金調達するならば納税資金、赤字の補填を目的に資金調達するならば赤字補填資金…といった塩梅です。
基本的に、IT業が資金調達する際にはつなぎ融資を利用します。
つなぎ融資とは、建設業の建築工事やIT業のソフト開発など、一定期間を要する案件に取り組む場合に、その間の資金繰りをつなぐための融資です。
例えば、工期3ヶ月のソフト開発案件を受注し、支払条件が「3ヶ月後の完成にあわせて一括払い」であれば、工期中の資金繰りが苦しくなります。
そこで、つなぎ融資として銀行から資金調達し、工期中の資金繰りに備えるのです。
銀行は、完成後に売掛先から支払われる代金を返済原資とみなします。
数ヶ月後の収入と紐づけることで貸倒れリスクが下がるため、融資審査の難易度は低めです。
ただし、利益率が低い案件では、何らかの理由によって採算割れを起こす可能性があります。
赤字案件ならば、受注時点で採算割れがほぼ確定しています。
採算に問題がある場合、返済原資が不足する恐れがあるため、つなぎ融資での資金調達は困難です。

IT業は保証付融資の割合が高い

 
すでに解説した通り、下請け以下のIT業者は利益率が低くなります。
多重下請構造の最下位層では、利益がほとんど出ない案件や、赤字案件の受注もしばしばです。
利益率が低い中で銀行から資金調達するには、信用保証協会の保証がカギとなります。
信用保証協会の保証付融資は、返済不能時に信用保証協会が残債の8割を代位弁済する仕組みです。
保証付融資であれば、銀行は貸倒れリスクを大幅に軽減できるため、利益率に問題のあるIT業者にも融資しやすくなります。
実際に、IT業は他の業種に比べて保証付融資の割合が高いです。
帝国データバンクの「国内企業22万社の融資等の保全状況実態調査(2016年)」 によると、サービス業(ITサービス業を含む)の担保・保証設定は以下のようになっています。

  • 無担保・無保証融資…14.1%(全業種平均は9.8%)
  • 保証付融資…31.9%(全業種平均は25.0%)
  • 有担保融資…53.9%(全業種平均は65.3%)

このデータから、ITサービス業を含むサービス業は「全業種平均よりも保証付融資が多く、有担保融資が少ない」ことがわかります。
IT業者は、十分な担保資産を持っていないことが多く、短期のつなぎ融資として資金調達することが多いため、有担保融資よりも保証付融資の重要性が高いのです。

IT業は保証付融資もハードルが高い

 
IT業者が銀行から安定的に資金調達するには、信用保証協会の保証枠を確保する必要があります。
しかしながら、IT業は保証付融資のハードルが高いです。
まず、経営環境が厳しいIT業では、保証枠の確保が容易ではありません。
原則として、無担保での保証枠は月商3ヶ月分(ただし8000万円が上限)です。
売上が落ち込んでいるIT業者や、起業したばかりで売上が低いIT業者は、十分な保証枠を確保できない可能性があります。
また、IT業は大都市集約型の産業であり、多くのIT業者が東京都で営業しています。
これに対し、信用保証協会は公的機関であり、民間の金融機関のようにたくさんの支店を構えていません。
信用保証協会の支店は全国に51店舗あり、各都道府県に1店舗ずつ営業しています。
東京都も、東京信用保証協会(中央区)の1店舗のみです。
東京都内のIT業者の保証付融資は、すべてこの1店舗が請け負うことになります。
もちろん人員は限られており、短期間に多くのIT業者が保証を依頼した場合、保証審査の順番待ちに長期を要する可能性が高いです。
実際にコロナ禍では、保証審査の結果が出るまでに数ヶ月を要することもありました。
さらに、東京都の信用保証協会は、保証付融資にさほど積極的ではありません。
中小企業向け融資に占める保証付融資の動向 を地域別にみると、東京都は15.0~17.5%程度であり、高くも低くもない水準です。
保証の姿勢があまり積極的ではないのに対し、保証を求めるIT業者の数が多いのですから、保証を受けられないIT業者も多いと考えるべきでしょう。
このことからも、IT業者の保証付融資はハードルが高いといえます。

IT業の資金調達②公的融資

 
公的融資とは、政府の100%出資によって営業している公的金融機関による融資です。
民間金融機関とは異なり、営利を目的としていないため、銀行の融資審査にIT業者でも資金調達できる可能性があります。
特に、公的融資による資金調達は、これから起業するIT業者や、起業したばかりのIT業者に役立ちます。

日本政策金融公庫から資金調達

 
公的金融機関のうち、代表的なのは日本政策金融公庫です。
これから起業するIT業者は、まだ起業していないため業績・財務による裏付けが一切ありません。
起業したばかりのIT業者も、信用に乏しい点では同じです。
したがって、民間金融機関からの資金調達は極めて困難といえます。
これに対し、日本政策金融公庫は、IT業者の起業前・起業後の資金調達にも対応しています。
日本政策金融公庫は営利目的ではないため、「そのIT業者に融資することでどれだけの利息収入が得られるか」を重視しません。
それよりも、「そのIT業者に融資することで、IT業界や経済界全体にどれだけの好影響が期待できるか」を重視します。
つまり、起業前・起業直後のIT業者でも、事業内容が良ければ資金調達できる可能性が高いです。
営利目的ではないだけに、無担保・無保証、低金利での資金調達も期待できます。
このほか、日本政策金融公庫の「新創業融資」は自己資金の9倍まで資金調達できるため、少ない自己資金で起業したい場合に役立ちます。

制度融資で資金調達

 
起業前後のIT業者には、制度融資での資金調達もおすすめです。
制度融資は、地方自治体と信用保証協会、そして民間金融機関が連携して融資する仕組みです。
具体的には、地方自治体が融資用の資金を銀行に貸付け、さらに信用保証協会が保証を付けることで融資を実行します。
貸付原資を地方自治体が出し、なおかつ信用保証協会の保証もつくため、銀行はほぼノーリスクで融資できます。
また、地方自治体の補助によって金利が安くなったり、元本の据え置きが可能であったりと、起業前後の資金調達には最適です。
ただし、自己資金と同額までしか資金調達できない、審査が厳しい、資金調達に時間がかかる、といったデメリットがあります。

IT業の資金調達③助成金・補助金

 
IT業の資金調達では、助成金や補助金の活用もおすすめです。

助成金で資金調達

 
助成金は、厚生労働省が実施しています。
雇用政策の一環として様々な助成金制度を設けており、幅広く活用できるのが利点です。
近年では、働き方改革による助成金の拡充が続いており、支給額が増額されることも多いです。
IT業では人手不足が深刻化しており、人件費の負担に悩むIT業者が増えています。
特に深刻なのが正社員不足ですが、助成金は正社員の確保に役立ちます。
助成金の中でもよく知られている「キャリアアップ助成金」の助成額は、有期雇用労働者を正社員化した場合には57万円、無期雇用労働者を正社員化した場合には28.5万円です。
このほかにも、賃金増額や業務改善によって受給できる助成金もあります。
助成金は、要件さえみたせば必ず受給でき、返済も不要です。
しかしながら、要件を満たすためのコスト負担が先行するため、事前に資金調達したうえで取り組む必要があります。

補助金で資金調達

 
補助金も、助成金と同じく公的な支援制度ですが、助成金とは趣が異なります。
助成金は、支給要件を満たした企業にもれなく支給し、「年間〇社まで支給」「年間〇億円まで支給」といった制限はありません。
これに対し、補助金は予算が限られているため、採択された企業だけが受給できます。
特に有名な補助金はIT導入補助金です。
IT導入補助金は、ITツールの導入に伴う経費の一部を補助し、教務効率化や売上アップを支援するものです。
様々な業種が補助対象となっており、ソフトウェア業や情報処理サービス業などのIT業も対象となっています。
IT業ではITツールが必要不可欠ですが、導入のためには多額の資金調達が必要となることも多いです。
その全額を融資で資金調達するのではなく、「導入費用の半分を補助金、半分を融資」といった形で組み合わせることで、資金調達が容易になるでしょう。

IT業の資金調達④出資

 
IT業は、出資による資金調達も可能です。

出資者は将来性を重視

 
出資は、出資者に株主になってもらうことで資金調達するものです。
融資とは異なり返済義務がないため、資金調達後の資金繰りがラクになります。
また、出資者は株式上場や、高い株価での売却を目的としています。
出資者にとって重要なのは、過去の経営実績ではなく将来性です。
過去の経営実績によって、銀行から資金調達できないIT業者でも、将来性があれば資金調達できる可能性があります。
将来性を重視することから、出資はIT業者にとって利用しやすい資金調達といえるでしょう。
IT業では、日々新たな技術が開発され、新たな需要が生み出されています。
今後ますます、ITは社会にとって欠かせないものとなり、IT市場はさらなる拡大を続けるはずです。
出資者は、「市場そのものに将来性があるか?」という点を重視します。
市場が縮小傾向にある斜陽産業では、出資先の成長も期待できないため、出資による資金調達は困難です。
その点、IT業は市場そのものに将来性があるため、他の業種よりも出資を受けやすいといえます。

出資による資金調達の難点

 
出資で資金調達する際に難しいのが、「そもそも出資者が見つからない」ということです。
融資ならば、営業エリアに複数の地方銀行や信用金庫が店舗を構えているため、借入先はすぐに見つかります。
しかし出資者は、探せば見つかるというものではありません。
出資者の代表格といえばベンチャーキャピタルですが、ベンチャーキャピタルの関係者と知り合うだけでもかなり高いハードルがあります。
よくあるのが、知り合いの経営者からベンチャーキャピタルを紹介してもらったり、自社の事業がマスコミに取り上げられてベンチャーキャピタルと縁ができたりするケースです。
自社のほうから積極的にアプローチしても、出資者から相手されないことがほとんどです。
実際、100社が出資を依頼したとして、ベンチャーキャピタルが実際に出資するのは1~3社だけといわれます。
つまり出資は、自社の資金繰りに合わせて資金調達するものではなく、長期的な成長戦略の一環として資金調達するものです。
そもそも「資金が不足したから出資で資金調達」という考え方は成り立ちません。
IT業者は、他の業種よりも出資を受けやすいものの、実際に出資で資金調達するのは困難と考えてください。
とはいえ、自社商品の革新性・新規性に自信があるならば、出資による資金調達も一考の価値があります。

売掛債権担保付融資で資金調達

 
売掛債権担保融資は、売掛金などの売掛債権を担保として融資を受けるものです。
売掛金は、企業間の信用取引によって発生する金銭債権です。
支払期日になれば売掛先から代金を回収できるため、売掛金には額面金額に近い価値があります。
この価値を担保として融資するのが売掛債権担保融資です。
売掛債権担保融資のメリットは、担保資産の中でも掛け目が大きく、額面金額に応じた資金調達がしやすいことです。
資産別の担保掛目の中間値は、おおむね以下のようになります。

  • 有価証券:実行ベース90%、上限90%
  • 売掛債権:実行ベース85%、上限85%
  • 在庫:実行ベース25~50%、上限30~60%
  • 機械:実行ベース70%、上限80%
  • 不動産:実行ベース55%、上限70%

近年、徐々に広がっているABL(動産担保融資)では、在庫や機械なども担保の対象となりますが、担保掛目が低く、思ったように資金調達できないこともあります。
不動産は担保資産の代表ですが、上記の通り掛け目が低く、実際の価値に見合うだけの資金調達は困難です。
その点、売掛債権の掛け目は85%ですから、有担保融資の中でも優秀といえます。
例えば、手元の売掛金の総額が1000万円の場合、これを担保とすることで850万円の資金調達が可能となります。
ただし日本では、売掛債権担保融資はまだまだ新しい資金調達方法であり、取り扱っているのは一部の銀行とノンバンクだけです。
このため、担保掛目が85%を下回ったり、審査が厳しくなったり、資金調達に苦労することも少なくありません。

売掛債権(売掛金)の売却で資金調達

 
売掛債権(売掛金)は売却することも可能です。
売掛債権(売掛金)の売却は、近年急速に普及している資金調達方法であり、「請求書買取」「売掛金流動化」などとも呼ばれます。
売掛債権(売掛金)の売却先は、売掛債権(売掛金)の買い取りに対応している銀行やノンバンク、そして売掛債権(売掛金)買取専門業者です。
売却先の業者は、売掛債権(売掛金)に対して審査を実施し、その売掛債権(売掛金)を買い取ることによって生じるリスクを測定し、買取の可否と条件を決定します。
例えば、額面金額1000万円の売掛債権(売掛金)を手数料率10%で売却するならば、900万円の資金調達が可能です。
信用取引を行っているIT業者は、常に手元に売掛債権(売掛金)を所有していることでしょう。
その売掛債権(売掛金)を売却することで、柔軟に資金調達できるのがメリットです。

売掛債権担保融資と売掛債権(売掛金)の売却の違い

 
売掛債権担保融資と売掛債権(売掛金)売却の大きな違いは、「融資による資金調達か(売掛債権担保融資)」「売掛債権(売掛金)の早期資金化(売却)による資金調達か」という点です。
売掛債権(売掛金)の売却は、法的には債権譲渡にあたります。
売却の際に交わす契約も「債権譲渡契約」であって、売掛債権担保融資のように「金銭消費貸借契約」を交わすわけではありません。
したがって、売掛債権(売掛金)の売却には返済負担がなく、資金繰りが苦しいIT業者の資金調達に適しています。
また売掛債権担保融資は、売掛金を担保として融資を受けるため、売掛金の所有権は自社に残ったままです。
担保設定した売掛金が回収不能になると、その売掛金の担保価値はゼロになります。
当然ながら、担保価値を根拠とする融資枠もゼロになるため、資金調達への支障は避けられません。
一方、売掛債権(売掛金)の売却は債権譲渡取引ですから、売却と同時に売掛金の所有権は自社から売却先へと移ります。
売却した売掛金が回収不能になった場合、回収実務や貸倒損失などはすべて買取業者が負担し、資金調達したIT業者は一切責任を負いません。
以上のように、売掛債権担保融資と売掛債権(売掛金)の売却には大きな違いがあります。
自社の資金繰りに最適な資金調達方法を選ぶことが大切です。

IT業界の契約形態の変化にみるソフトウェア会社の資金調達

これまで、多くのソフトウェア会社はクライアント企業などからソフトウェア開発を受託する「受託開発」を標榜しつつも、自社の技術者を一般企業や他のソフトウェア会社に派遣する「特定派遣」や成果物責任を負わない「準委任契約」で業務を行っていたのではないでしょうか。

これらの契約は両者とも自社の製造物、成果物に責任を負わなくとも技術者さえいれば依頼元企業へ請求後、最大2ヶ月程度のリードタイムで報酬が手に入るもので、これまで多くのソフトウェア会社のビジネスモデルとして定着していたものです。

しかしながらこれらの取引形態が今大きく変化しており、それに伴ってソフトウェア会社の資金調達も変わってきつつあるのです。

派遣で技術者を出せなくなった~労働者派遣法改正のインパクト~

2018年10月以降、特定派遣での取引がなくなり多くのソフトウェア会社が「一般派遣」に切替えたり、いわゆる「SES(システム・エンジニアリング・サービス)」と呼ばれる準委任契約に切り替えるケースも多いのではないでしょうか。

しかしながら自社の社員を派遣する「特定派遣」と比べて「一般派遣」は、ハードルが高いといわれています。

一般派遣事業の許認可を取得するためには、自社が保有している資産の要件を満たさなければなりません。

直近の決算で純資産に関する要件、現金に関する要件、負債の比率に関する要件がチェックされ、すべての要件をクリアしていることが条件になるのです。

具体的には・・・

・純資産に関する要件
資産から負債を引いた金額が2,000万円以上であること。

・現金に関する要件
資産の内、現金が1500万円以上であること。

・負債の比率に関する件
資産から負債を引いた金額が負債の7分の1であること。
ただし、法改正以前の特定派遣事業者が一般派遣事業に切り替える場合には特例があります。
しかし、事業所が本社と支店に分かれている場合のように営業所が複数ある場合には特例の対象にはなりません。

そのためあまり資産を保有していない企業では「一般派遣」への切替えを見送り、「SES」への契約変更を行ったソフトウェア会社も多いのではないでしょうか。

「準委任契約」である「SES」は法的には相手方の指揮命令を受けないことが原則です。

しかしながら、多くのソフトウェア開発の現場では派遣と同様に依頼元企業の指揮命令を受けて業務に従事し続けています。

そのためこの「SES」が実質的に偽装派遣の隠れ蓑ともいわれることもあります。

しかし、今や多くの企業でコンプライアンス(法令遵守)意識が高まり、いつまでも法令違反になりかねない状況を放置していることは考えにくいのも事実ではないでしょうか。

このようなことからプロジェクト管理面の変化はあるものの、今後この「SES」も変化していくことも考えられるのです。

民法改正で「SES」も変わる?

派遣法改正以外、もう1つ従来のソフトウェア開発取引の大きなインパクトをもたらすのが民法改正です。

これまでSESを含む準委任契約では、請負側が瑕疵担保責任を問われることはありませんでした。

つまり仮に契約したソフトウェアなどが完成しなくても請求(契約)した金額がそのまま支払われていたのです。

しかし、今回の民法改正においては請負契約だけでなく、準委任契約であっても契約書の内容によっては請負契約と同様に無償でのバグの補修など成果物に対する責任を負わされるケースも考えられます。

また、プロジェクトの進捗や品質によって減額等の措置も追加できるようになりました。

これによって自社及び技術者の頑張りによって予定よりも多くの報酬が得られる可能性もあるのですが、ともすれば予定していた収益を下回ってしまうリスクも考えられるのです。

つまりもはやSESなどの準委任契約でも安定した資金繰りができなくなる可能性もあるのです。

まとめ:ソフトウェア会社におけるファクタリング活用

上記のように、いまやソフトウェア業界の環境は大きく変化しています。

また近年IT技術者不足が叫ばれており、優秀な技術者を自社に雇用し続けるための待遇改善も不可欠です。

このような状況で、今後ソフトウェア会社の経営を維持し続けるためには資金の流動性を高めていくことが大切です。

資金の流動性を高めていくためにファクタリングの活用も有効な手段と言えるのではないでしょうか。

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