カテゴリー: ファクタリング
無借金経営はデメリットが大きい!理想は「実質無借金経営」
日本の経営者には、根強い「無借金経営信仰」があります。
お金はできるだけ借りない方がよいという考え、借金ゼロの状態が最も好ましいと考える経営者が多いのです。
しかし、無借金経営には大きなデメリットがあり、倒産の原因になることも少なくありません。
この記事では、無借金経営のデメリットについて詳しく解説します。
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無借金経営とは?
「無借金」とは「借金を全くしていない状態」のことであり、「無借金経営」とは、「借金を全くせずに経営している状態」を意味します。
まずは、無借金経営の基本的な意味、日本における無借金経営などについて考えていきましょう。
貸借対照表における「無借金」
決算書は財務三表とも呼ばれ、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」の3つを必ず作成します。
このうち貸借対照表は、会社の財務状況をまとめた資料です。
貸借対照表の上で考えることによって、無借金の意味がより鮮明になります。
貸借対照表を構成する要素は、以下の3つです。
現金や債権や不動産などの資産をまとめる「資産の部」
借入金などの負債をまとめる「負債の部」
資本金などの純資産をまとめる「純資産の部」
銀行やノンバンクからの借入、あるいは社債の発行などによって資金を調達すると、借入金の返済や社債の償還には利息が伴います。
「無借金」とは、このような利子付きの負債が、負債の部に全く計上されていない状態のことです。
あくまでも、「有利子負債がゼロ」という点がポイントです。
利息がつかない負債をいくら抱えていても、有利子負債がゼロであれば無借金経営といえます。
例えば、後日支払いの条件で取引すると、負債の部には買掛金や支払手形が計上されます。
しかし、買掛金や支払手形は有利子負債ではないため、無借金経営の基準には影響しません。
日本の経営者に多い「無借金志向」
「無借金経営」と聞くと、クリーンで好ましい経営をイメージする人も多いでしょう。
日本の経営者には「無借金志向」を持つ人が少なくありません。
このことは、具体的なデータからも明らかです。
東京商工リサーチが実施している「無借金企業調査」では、以下のような結果が出ています。
2020年9月期以降の財務データ2万948社のうち、無借金企業は3,278社で、無借金率は15.6%だった。コロナ前の前回調査時(2019年9月調査)の24.4%に比べると8.8ポイント低下した。
出典:出典:東京商工リサーチ「第2回全国無借金企業調査」
新型コロナウイルス感染症によって経済が大きく落ち込む以前は、4社に1社の割合で無借金経営をしており、経済悪化以降も6~7社に1社の割合で無借金経営を維持しているのです。
事業規模が小さい会社ほど無借金経営にこだわる傾向があります。
ただし、大企業が無借金経営に無関心かといえばそうでもなく、世界的な企業である任天堂は一貫して無借金経営です。
日本が世界に誇る一流企業が無借金経営を貫いていること、また中小企業の中には無借金経営を維持する会社が少なくないことから、「無借金経営が理想的であり、実現可能でもある」といった意識を持つ経営者が多いと考えられます。
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無借金経営の5つのメリット
なぜ無借金経営を目指す経営者が多いのでしょうか。
それは、無借金経営には以下のようなメリットがあるからです。
1.返済負担がない
無借金経営にこだわる経営者のほとんどは、「返済負担がないこと」をメリットに挙げるでしょう。
上記の通り、無借金経営とは「有利子負債が全くない状態」を意味します。
銀行やノンバンクなどからお金を借りていない状態であり、当然ながら返済義務も全くありません。
資金繰りの負担になる要素は様々ですが、借入金の返済も大きな負担のひとつです。
借入条件によっては、借入金額と返済期間のバランスが取れていないこともあります。
大きな借入を短期間で返済する場合、毎回の返済額が大きくなり、資金繰り負担は高まります。
もちろん、銀行は返済を見込んで融資するため、返済負担がたちまち資金ショートを招くことは考えにくいです。
しかし、景気には波があり、自社の業績がいつ悪化しないとも限りません。
借入の時点では無理のない返済計画を立てていても、その後の景気悪化や業績悪化によって返済困難になることも考えられます。
このほか、返済期間だけではなく金利条件も重要です。
高金利で借り入れた場合、元金だけではなく支払利息の負担も重くなるため、資金繰り悪化の危険が高まります。
無借金経営であれば、このような心配はありません。
元金の返済も、利息の支払いも不要ですから、これらによって資金繰りが悪化したり、資金ショートの危機にさらされることがないのです。
借金していない気楽さから、苦しい局面でも冷静に判断しやすいこともメリットです。
2.決算書の見栄えが良くなる
無借金経営の会社は、貸借対照表の見栄えが良くなります。
負債の部に有利子負債がないため、見た目が良くなるのです。
もっとも、単に見た目だけではなく、財務指標も良好に保ちやすいです。
会社の財務安定性を測る重要な指標に「自己資本比率」があります。
自己資本比率は、返済の必要がない「自己資本」と、返済が必要な「他人資本」の比率です。
銀行やノンバンクからの借入は、返済が必要なため他人資本に含まれます。
他人資本が多い会社ほど自己資本比率が低下し、財務安定性が低いとみなされます。
自己資本比率が低ければ銀行からの評価も低くなり、借入のハードルも高くなるのが普通です。
無借金経営の会社は、貸借対照表に計上される有利子負債がゼロです。
当然ながら自己資本比率が高くなり、決算書の見栄えも良くなります。
3.資金繰りの管理が簡単になる
無借金経営は、資金繰りの管理が容易です。
借金しながら経営する場合、借入金の返済を織り込んで資金繰りを管理しなければなりません。
借入先が複数ある場合、借入先ごとに金利や返済額が異なるため、資金繰り計画が煩雑になります。
それぞれの借入金をしっかり把握しながら資金繰りしなければ、返済に遅れて信用を損なう可能性が高いです。
資金繰り計画を立て、将来的な資金不足が明らかになった場合には、計画的に資金を調達する必要があります。
これにより有利子負債が増え、資金繰り管理がさらに難しくなる…といった悪循環に陥る会社も少なくありません。
無借金経営の会社には、この心配がありません。
借入金の返済を考慮せず、その他の支払いだけを考えて資金繰りできます。
4.外部の影響を受けにくくなる
無借金経営の会社は、資金の調達先である外部機関の影響を受けにくいです。
無借金経営でなければ、銀行などから資金を調達する必要があり、それによって経営の自由度が損なわれることがあります。
例えば、銀行から資金を調達する際、銀行は資金使途を重視します。
資金使途に合理性を求められ、希望する借入の内容と資金使途の整合性も重要です。
資金使途が融資を左右する点を見ても、外部から影響を受けているといえます。
「銀行が納得するように借入金を使わなければならない」という縛りが生じているからです。
ほかにも、銀行は様々な形で経営に干渉してきます。
銀行が積極的に干渉してくることは少ないものの、以下のような話はよく聞きます。
これまでは無担保・無保証で融資を受けられたが、支店長が変わった途端に支店の方針が変わり、担保・保証を求められることが増えた
銀行からの強い勧めで、新しい融資商品によって借り入れた。後々、自社に不利な条件であることに気が付いた
無借金経営であれば、銀行との付き合いも希薄です。
せいぜい、売掛金・買掛金の決済、法人口座や従業員口座の開設や、住宅ローンを検討している従業員の紹介といった付き合いに限られるでしょう。
銀行が経営に干渉してくるきっかけはほとんどなく、経営の自由度を損なうことはありません。
5.廃業が容易になる
多くの中小企業は、後継者不足に悩まされています。
後継者がいない場合、経営者は何らかの形で会社をたたむこととなります。
しかし、自分の代限りで廃業すると決めたとしても、勝手に廃業できるわけではありません。
廃業するためには、借入金を全て返済する必要があるからです。
会社の所有する資産を全て現金化しても、借入金を全額返済できない場合には、破産手続きを行います。
手元には一切お金を残すことはできず、債権者にも迷惑をかけてしまうため、後味の悪い引退になるでしょう。
無借金経営ならば、廃業の際に返済すべき借入金はゼロですから、容易に清算・廃業できます。
清算の結果、手元にお金を残せる可能性も高いです。
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無借金経営の三大デメリット
日本には無借金経営を目指す経営者が多く、無借金経営には色々なメリットもあります。
しかし、無借金経営は必ずしも良いものではなく、むしろ世界的には「無借金経営は愚策」というのが標準的な感覚です。
なぜならば、無借金経営のメリットとデメリットを比較した場合、デメリットの方がはるかに大きいからです。
無借金経営の三大デメリットをみていきましょう。
1.会社が成長できなくなる
無借金経営の大きなデメリットは、会社が成長できなくなることです。
そもそも、会社は営利を目的とする組織です。
事業によって利益を上げること、そして可能な限り会社を成長させてどこまでも利益を高めていくことを目指します。
会社が成長を目指すとき、多額の資金需要が発生します。
製造業で考えてみましょう。
製造会社が成長するには、以下のように様々な施策が必要です。
販売ルート拡大(営業部門の人材確保、宣伝広告の拡大)
新工場の設立(土地の取得、建物の建築、設備の導入、製造部門の人材確保)
新製品開発(研究開発に携わる人材の確保、研究開発費の投入)
製造設備の導入(老朽化した設備の更新、新規設備の導入)
無借金経営を貫く場合、事業で得られた利益だけが頼りです。
よほど利益率が高く、事業規模が大きい会社でなければ、資金の捻出は困難でしょう。
また、利益だけで成長を目指しても、おそらくうまくいきません。
現代は、あらゆる物事がめまぐるしく変化する時代です。
時代の流れを上回るスピードで成長を続けなければ、うまくいっても現状維持、大抵の場合は衰退していきます。
もはや、本業の利益だけで成長できる時代ではないのです。
今後、時代の流れはさらに早くなっていくでしょう。
無借金経営にこだわる会社は、遅かれ早かれ淘汰される可能性が高いです。
2.銀行との関係を築けない
無借金経営であれば、銀行との付き合いを深めることはできません。
これも深刻なデメリットです。
銀行と付き合いを深めるには、融資を受けるほかないからです。
融資を受ける際、銀行は会社を詳しく審査し、経営者と会社のことを詳しく知ります。
審査に通れば融資実行に至りますが、ここがスタート地点です。
借りたお金を間違いなく返済していくことで、銀行は「約束を守る会社」と信頼します。
一度きりではなく、借入と返済を繰り返し、信用を積み重ねていくことが大切です。
その結果、銀行は積極的に融資してくれるようになります。
これが、「銀行との付き合いが深い」ということです。
無借金である以上、このような流れは一切なく、銀行と良い関係を築くことも不可能です。
これまで無借金経営だった会社が、「このままでは時代に取り残される」と危惧を抱いて成長を目指しても、果たして銀行はどれだけ支援してくれるでしょうか。
信用がほぼゼロの状態ですから、成長のために多額の融資を受けることは困難です。
ここから徐々に信用を築いていく必要があり、「借入⇒成長⇒さらに借入⇒さらに成長」という好循環が生まれるまでに長い時間を要します。
「これから成長を」と考えたときには、すでに手遅れかもしれません。
3.資金繰り破綻のリスクが高い
ここまでの流れから、すでにお気づきの方も多いでしょう。
無借金経営の会社は、資金繰り破綻のリスクが非常に高いです。
基本的に、無借金経営の会社は財務が安定しています。
財務が不安定であれば資金不足に陥ることも多く、経営者が無借金経営にこだわったところで借入は避けられません。
財務の安定性が高く、手元資金が潤沢だからこそ無借金経営が成り立っているのです。
しかし、ビジネスの世界は「一寸先は闇」です。
去年までは財務が安定していても、今年から急に財務が不安定になる、といったことが珍しくありません。
例えば、貸し倒れによって経営が傾くことがあります。
額面金額が大きい売掛金が回収不能に陥った場合、巨額の貸倒損失が発生します。
損失は手元資金から補填する必要があり、手元資金が乏しい会社は赤字補填資金の調達が必要です。
無借金経営の会社は、手元資金をある程度確保していますが、大型の貸し倒れを起こせば手元資金が大きく目減りし、財務は急激に悪化するでしょう。
コロナ禍のような景気悪化局面ならばなおさらです。
売上の悪化に歯止めがかからず、手元資金がじわじわと目減りしていく中、売掛先がバタバタと倒産して貸倒損失が膨らみ、自社も連鎖倒産…といった流れも十分に考えられます。
これまで無借金を貫き、銀行との関係を築いてこなかったのですから、銀行も支援してくれません。
銀行と関係を築いてきた会社でさえ、経営悪化局面では借入に苦労するのです。
無借金経営は、資金繰り破綻のリスクが極めて高いと考えるべきです。
借金?無借金?経営への影響を徹底比較
無借金経営について、メリットとデメリットをみてきました。
では、借金経営と無借金経営を比較した場合、それぞれ経営にはどのような影響があるのでしょうか。
いくつかの確度から比較していきます。
経営者の意識の違い
借金経営と無借金経営では、経営者の意識レベルで大きな差が生じます。
まずはこの点を比較してみましょう。
借金経営の経営者の意識
借金経営の経営者は、資金繰り・資金調達への意識が高いです。
何といっても、借りたお金は返さなければなりません。
返済が滞らないように、資金繰りを円滑に回すことを心がけます。
もちろん、収支のバランスが整わなければ、資金繰りはうまく回りません。
銀行から借金をし、返済を織り込んで計画的な資金繰りを心がけるということは、売上の維持・増大、売上変化に伴う運転資金の増減、売掛金・買掛金の支払い条件などを意識するということです。
つまり、「借金の有無」「無借金へのこだわり」などといった経営の一面だけでなく、経営を総合的に意識することにつながります。
さらに、借入そのものへの意識も深まるものです。
銀行と融資交渉を重ねることで、より良い条件で借りやすくなります。
不動産担保融資、売掛債権担保融資、信用保証協会保証付融資など、様々な融資商品を比較検討し、自社に最適な借入れを選択することも可能です。
このような意識があってこそ、やがてプロパー融資も見えてきます。
これが、長期的に、経営にプラスの効果をもたらすことは言うまでもないでしょう。
無借金経営の経営者の意識
一方、無借金経営の経営者は、資金繰り・資金調達への意識が低くなりがちです。
無借金経営の会社は、借入金の返済を考える必要がありません。
資金繰り計画を立てやすいという点ではメリットですが、経営者自身において、計画的に資金繰りしていく能力が育たないという点では大きなデメリットです。
将来的に、やむを得ず多額の借金をした場合、その返済を踏まえた資金繰りがうまくいかず、経営悪化の引き金になるケースもあります。
「資金繰りが簡単だから」と無借金経営を続けた結果、資金繰りがショートしては本末転倒です。
また、無借金経営の会社ほど、必要以上に無借金にこだわる傾向があります。
無借金経営を貫くには、資金調達の際、融資という選択肢を最初から除外しなければなりません。
本来、資金調達の軸とすべき融資を除外することは、資金繰り的に大きなデメリットです。
このことは、「借金経営の大多数の会社」と「無借金経営の自社」の調達環境を比べるとよくわかるでしょう。
無借金経営の経営者は、返済負担を織り込んで資金繰りを回すこともなければ、借入と他の資金調達方法との兼ね合い・併用、最適な資金調達方法の選択、借入による低コストでの調達といったことが不可能になるのです。
このデメリットに甘んじる理由が、単に「無借金経営へのこだわり」というならば、あまりにもお粗末と言わざるを得ません。
資金調達のしやすさ
次に、借金経営と無借金経営の資金調達のしやすさを比較してみます。
借金は信用になる
借金経営の会社は、無借金経営の会社に比べて資金調達がしやすいです。
特に銀行からの調達が容易となります。
上記でも解説した通り、銀行は無借金経営の会社を信用しません。
融資は、銀行と会社の取引にほかならず、借金経営の会社であってこそ、取引を重ねる(=借金と返済を繰り返す)ことで信用を積み重ねることもできます。
長期にわたって積み重ねた信用は、会社の底力になります。
経営が悪化した際、それまでの信用によって融資してくれる銀行があるかもしれません。
多額の調達が必要になったときにも、「この会社は返済してくれる」という信用があればこそ、スムーズに調達できるのです。
また、経営が好調であれば、「過去の信用+将来性」によってプロパー融資も引き出しやすくなります。
プロパー融資は、色々ある融資の中で最も好条件のものです。
無担保・無保証はもちろんのこと、プライムレート(最優遇金利)・長期返済など、資金繰り的にメリットの多い条件で借り入れることができます。
それも全て、借金経営で信用を重ねた結果です。
無借金では信用がない
無借金経営は、借金経営よりも信用が低いです。
無借金の会社は返済することもなく、銀行に信用を積み重ねる機会がありません。
無借金経営の会社は、いざ銀行から借りようと思っても、そう簡単にはいきません。
銀行は、無借金経営の会社(取引歴がない会社)を敬遠します。
無借金のため信用がなく、経営内容も不明である以上、銀行としても積極的に融資すべき理由が見当たらないのです。
銀行が貸付に回せる資金は限られています。
限られた資金の中で効率よく稼ぐには、貸倒れリスクの低い会社にできるだけ多額を貸付けることが重要です。
貸倒れリスクが不明な会社よりも、貸倒れリスクが低い会社に貸したいと考えるのは当然でしょう。
その点、借金経営の会社は、すでに取引があり、経営の内容もよく知っています。
これにより、「無借金経営の会社にはなるべく貸したくない」「借金経営の会社は検討可能」という差が生じるのです。
無借金経営でもスムーズに調達できるとすれば、銀行のように信用を重視しない方法に限られます。
多くは内部資金調達であり、資産の売却がその好例です。
しかし、内部資金調達で調達できるからといって、無借金経営をすべき理由にはなりません。
むしろ、融資で調達できないデメリットを考えるべきです。
このデメリットから目を背けるために、あえて無借金経営にこだわっているならば、非常に危険といえます。
内部資金調達でも、外部資金調達でも調達できるに越したことはないのです。
経営悪化を生き抜く力
無借金経営・借金経営に限らず、経営が順調な時は資金繰りに困ることも少ないでしょう。
問題は、経営が悪化した時です。
経営悪化をいかに切り抜けるか、借金経営と無借金経営では大きな差があります。
メインバンクという後ろ盾
経営悪化時に強いのは、やはり借金経営です。
借金経営の会社は、銀行から融資を受けています。
一行取引の場合には唯一の借入先が、複数行取引の場合には借入先のうち最も取引が深い銀行がメインバンクとなります。
自社の経営が悪化した時、最後まで面倒を見てくれるのがメインバンクです。
永遠に支援してくれるわけではありませんが、簡単に支援を打ち切ることはありません。
赤字の時にも赤字補填資金を調達しやすく、リスケジュールの際にはメインバンクから相談することでスムーズにいくことが多いです。
また、複数行と取引している場合、メインバンクが見放していないということが、サブバンクにとって一つの安心材料になります。
その他の借入先は、「メインバンクが支援しているうちは大丈夫」と考えるものです。
追加融資は渋るとしても、サブバンクが貸し剥がしなどの強硬姿勢に出る可能性は低いでしょう。
サブバンクとの関係が切れることはなく、メインバンクの支援によって経営を立て直した後、再びサブバンクからも融資を受けながら経営を続けることができます。
借金経営だからこそ、メインバンクという強力な後ろ盾が得られるのです。
これが、経営悪化を生き抜く力になります。
無借金経営=メインバンク無し
無借金経営は、どの銀行からも借り入れていない状況です。
借入先はゼロですから、メインバンクもありません。
経営が悪化した時、メインバンクのような後ろ盾がないことは、無借金経営のデメリットといえます。
無借金経営のこのデメリットを知り、あわてて借り入れたとしても、すぐにメインバンクが得られるわけではありません。
初めの借金をした時点で、借入先は0から1になります。
さらに別の銀行から調達できれば、借入先は2行です。
とはいえ、借入先が即メインバンクになるとは限りません。
上記の通り、メインバンクとは「最後まで面倒をみてくれる銀行」です。
取引があっても、親身になってくれない銀行はメインバンクとはいえないのです。
取引を重ねるうちに、自社と相性の良い銀行が徐々に明らかになってきます。
その銀行に取引(借入れ、会社の預金、従業員の給与振込、為替取引など)を集中させ、意識的に関係を深めていくことで、はじめてメインバンクができるのです。
つまり、メインバンクを作るには、ある程度の時間がかかります。
メインバンクがなければ、経営悪化を生き抜くことは難しいでしょう。
このデメリットを解消するためにも、無借金経営にこだわるべきではありません。
担保・保証の活用度
資金調達の際、カギになるのが担保・保証です。
借金経営と無借金経営では、担保・保証の活用度にも差があります。
担保・保証の重要性
資金調達で担保・保証が重視されるのは、主に融資の場合です。
銀行は特に担保・保証を重視します。
その理由は、融資が法的に消費貸借だからです。
法律では、消費貸借について以下のように定めています。
(消費貸借)
第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
出典:出典:e-Gov法令検索「第五節 消費貸借」
ここにある通り、融資は返済義務を伴います。
だからこそ、銀行は返済力のある会社にしか融資しません。
もっとも、融資審査の時点では返済力に問題がなかったとしても、その後の経営の変化により、返済できなくなることがあります。
民法第587条には「種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をする」とあります。
借入金は現金(本業から得た利益)で返済するのが原則ですが、この条文にある通り、現金以外で返済することも可能です。
担保資産の売却や、信用保証協会による弁済もそのひとつです。
担保価値の範囲内で融資すれば、貸倒損失の大部分を回避できます。
信用保証協会の弁済も、残債の8割が基本です。
このように考えると、銀行が担保・保証を重視する理由がよくわかるでしょう。
銀行は、貸倒損失に備えるために担保・保証を求めるのです。
借金経営は担保・保証を活用
銀行の判断は、担保・保証の有無によって大きく変わります。
多少返済力に問題があっても、担保・保証さえあれば融資することが多いです。
というよりも、よほどの優良企業でなければ、銀行が無担保・無保証で融資することはありません。
実際のデータをみても、借金経営の会社のうち、無担保・無保証で融資を受けているのは全体の1割程度です。
約9割の会社は、有担保または有保証で融資を受けています。
この事実から、借金経営の会社ほど担保・保証の活用度が高いことが分かります。
無借金経営で担保・保証を温存?
基本的に、資金調達の際に担保・保証を求められるのは融資だけです。
担保・保証を活用するということは、借金経営をすることにほかなりません。
無借金経営では、担保・保証を十分に活用することは困難です。
せっかく担保・保証に余力があっても、それを経営に活かせないのですから、これは大きなデメリットといえるでしょう。
無借金経営のメリットとして、「担保・保証の温存」を挙げる経営者もいます。
たしかに、無借金であれば担保を差し入れることも、信用保証協会の保証を受けることもありません。
しかしながら、「無借金経営=担保・保証余力の維持」と考えるのは早計です。
無借金経営でも、担保・保証余力が減少することがあります。
まず担保余力。
担保余力は担保価値に依存し、担保価値は常に変動しています。
通常、不動産担保の価値は徐々に減少していきます。
建物部分の価値は経年とともに下がるためです。
需要が高まって建物部分の価値が上がったり、土地部分の価値が高騰したりすることもあるでしょう。
しかし同時に、需要の減少などを理由に価値が下がることもあるのです。
将来的な価値を正確に見積もることは専門家でさえ不可能です。
となれば、経年による価値の下落は必然であるだけに、担保余力は徐々に減少すると考えるのが妥当でしょう。
保証枠の増減は、担保余力よりも単純です。
信用保証協会の保証枠は、月商の3ヶ月分が目安となります。
売上が上がれば保証枠も増え、売上が下がれば保証枠も減るというわけです。
ただし、保証枠は無制限ではありません。
無担保は8000万円、有担保は2億8000万円を保証の上限としています。
無借金経営・担保の温存にこだわるならば、無担保8000万円が保証上限になります。。
どれだけ売上が伸びたところで、保証枠は8000万円が上限です。
一方で、売上が下がれば保証枠は容赦なく減っていきます。
無借金経営にこだわるあまり、必要な資金を必要なタイミングで投入できず、売上がうまく伸びていかないとなれば、保証枠は増加よりも減少の危険が大きいといえるでしょう。
担保・保証は、融資に活用してこそ意味があります。
「無借金経営で担保・保証を温存」と考え、結果的に担保・保証の減少を招いてしまえば本末転倒です。
これも、無借金経営のデメリットといえます。
調達余力という考え方
自社が資金を必要としていても、必ず資金調達できるとは限りません。
会社の業績・財務に応じて「調達余力」というものがあり、それ以上には調達できないのです。
借金経営と無借金経営の違いを、調達余力の観点からみていきましょう。
調達余力とは?
調達余力とは、その会社の業績や財務などをもとに、あとどれくらい調達できるかを示すものです。
銀行は、融資上限というものを設けていません。
貸倒れリスクが低ければいくらでも貸したいというのが銀行のホンネです。
とはいえ、無制限に貸せるわけではなく、銀行の融資審査では調達余力もみています。
調達余力を図る際、よく用いられる指標が借入金月商倍率です。
借入金月商倍率は、借入総額(短期借入と長期借入の合計)が、その会社の月商の何倍かを示します。
例えば、年商1億2000万円の場合、平均月商は1000万円です。
この会社の借入総額が2000万円であれば、借入金月商倍率は2倍となります。
一般的に、銀行は借入金月商倍率の3ヶ月分を融資上限(=借入れによる調達余力)とみなします。
もっとも、調達余力の根拠は借入金月商倍率だけではありません。
担保・保証の余力、預金残高、他の銀行(融資を申し込んだ銀行以外)からの借入れ余力、融資以外の方法で調達できる余力など、様々な点から判断します。
すでに月商3ヶ月分の借入があったとしても、その他の要素から調達余力を多めに見てもらえるのはよくあることです。
また、月商や担保・保証余力など実際の数値とは関係なく、普段の銀行取引が調達余力とみなされる場合もあります。
銀行の融資の判断は、銀行格付けによるところが大きいです。
銀行格付けが良ければ融資可能、悪ければ融資不可というように、ごく単純に考えます。
実のところ、銀行格付けは金融庁のマニュアル(債務者区分)が元になっています。
全ての銀行が同じマニュアルを元にしているため、銀行ごとに格付けが大きく変化することは基本的にありません。
銀行Aで格付けが良好・融資可能であれば、銀行Bでもやはり格付け良好・融資可となるのが普通です。
つまり、銀行の融資判断は横並びということです。
これにより、銀行Aで融資を受けられる(調達余力がある)という事実を以て、銀行Bでも融資可と判断することがあります。
実際に稟議書をみてみると、借入金月商倍率が3倍超、担保・保証余力なしの会社が、
「メインバンク・サブバンクともに積極的な支援を受けている。これを実質的な調達余力とみなし、融資を検討したい」
などと記載されるケースが少なくありません。。
無借金経営では調達余力が伸びない
調達余力にどう影響するかを考えることで、無借金経営のデメリットがみえてきます。
無借金経営の会社は、借入総額がゼロです。
当然ながら、借入金月商倍率もゼロ。
借入金月商倍率だけで考えると、月商3ヶ月分の調達余力がある状態です。
また、無借金経営の会社は担保・保証も全く使っておらず、その点でも調達余力は充実しています。
調達余力を評価した銀行が、無借金経営の会社に融資を提案することも。
しかしながら、無借金経営は調達余力に問題を抱えています。
無借金経営の会社の調達余力は、あくまでもそれだけのものです。
月商の3ヶ月分、担保・保証の余力分の調達余力しかありません。
また、ここまで解説した通り、無借金経営の会社は信用がないため、調達余力に見合うだけの融資を受けられるとは限りません。
むしろ、多くの銀行は調達余力を低めに見積もり、多くの融資は出さないでしょう。
経営者としては、無借金経営で財務を良好に保っているつもりでも、銀行の評価は異なります。
無借金かどうかより、信用があるかどうかのほうがはるかに重要です。
借金経営で信用がある会社は、調達余力に見合った融資を受けやすく、取引歴と信用次第で調達余力以上に借り入れることもできます。
しかし、無借金経営で信用がない会社は、借りられても調達余力相応、多くの場合は調達余力以下です。
借入金月商倍率が調達余力に反映されにくいため、売上が伸びても調達余力が伸びていきません。
これは無借金経営のデメリットといえます。
無借金経営でキャッシュフローが悪化
無借金経営で調達余力が低い会社は、キャッシュフローが悪化しやすいこともデメリットです。
借金経営の会社は、営業キャッシュフローや投資キャッシュフローのマイナス分を、財務キャッシュフローのプラス(借入れによる資金供給)でカバーしながら、全体のキャッシュフローをコントロールできます。
無借金経営の会社は、財務キャッシュフローが常にゼロの状態であり、そのようなコントロールが不可能です。
営業不振や投資活動によって営業・投資キャッシュフローがマイナスになれば、それをただ垂れ流すだけです。
つまり、キャッシュフローが悪化していきます。
銀行はキャッシュフローを重視するため、キャッシュフローがマイナスというだけで、融資のハードルが高まります。
無借金経営で調達余力があっても、無借金経営のためにキャッシュフローがマイナスになってしまえば、銀行から融資を受けられるはずがありません。
これにより、融資環境は一層悪化します。
無借金経営は、複数の原因により、連鎖的に調達余力が低下していくのです。
無借金経営は無計画に陥りやすい
無借金経営の会社がこのデメリットを痛感するのは、多額の資金需要が発生した時です。
短期間に退職者が集中したときの退職金の支払い、設備を導入するのための投資資金、M&Aや新規事業展開のための投資資金、取引先の倒産により売掛金が回収不能になったときの補填資金などなど。
これらの資金需要を、全て手元資金で賄うのは現実的ではありません。
まず、それだけの手元資金がない会社がほとんどでしょう。
かといって、無借金経営の会社は調達余力が低く、十分な資金調達が困難です。
そのために事業活動の振り幅が小さくなれば、厳しい競争に勝ち抜いていくことは難しいでしょう。
手元資金が潤沢であっても、それで全て賄うのは考え物です。
会社経営において、現金は最大の武器です。
手元資金が厚いほど経営は安定します。
しかし、手元資金を積むのは簡単ではなく、手元資金が減るのは一瞬です。
多額の資金需要を全て手元資金でカバーすれば、手元資金の大幅な減少を招きます。
これは、財務や資金繰りが大幅に悪化することにほかなりません。
例えば投資資金を全て手元資金で賄ったとして、その投資がうまくいけばよいのですが、投資に失敗することもあり得ます。
むしろ、その懸念はかなり大きいでしょう。
借金経営ならば、投資資金は借入で調達するのが基本です。
投資計画書を作成し、銀行の納得を得る必要があります。
ずさんな投資計画では融資を受けられず、無理な投資は断念せざるを得ません。
結果的に投資活動の失敗を回避できるのですから、却ってよかったといえます。
しかし、無借金経営の会社が手元資金だけでカバーする場合、銀行の厳しい目で審査を受けることなく投資活動に踏み切ることになります。
投資活動がずさんであっても、経営者自身は「勝算あり」と考えるのですから、失敗に終わる可能性も高いです。
「銀行から借りたお金(返済義務があり資金使途が限られるお金)」を用いる借金経営の会社と、「手元にあるお金(返済義務がなく資金使途も自由なお金)」を用いる無借金経営では、計画性に差が出るのは当然でしょう。
以上のように、無計画に陥りやすいことも無借金経営のデメリットです。
多額の資金を要する活動において、このデメリットが表面化し、経営に深刻なダメージを与えるケースも珍しくありません。
「無借金経営→調達余力が低い→手元資金でカバー」という流れが、経営悪化を招くのです。
融資スピード
経営を続けるには、あらゆる資金繰りに備えておくことも重要です。
資金繰りを維持するために、必要なタイミングで的確に、時にはスピーディな調達が必要となります。
借金経営と無借金経営のうち、スピーディな借入れに強いのはどちらでしょうか。
銀行融資の調達スピード
前提として、銀行融資はスピーディな調達に不向きです。
手形割引などを別とすれば、早くても数週間、大抵は1ヶ月程度を要します。
無借金経営にせよ、借金経営にせよ、緊急の資金調達に不向きという点は同じです。
しかしながら、同じ銀行融資でも、融資が早めに実行される場合と、そうでない場合とがあります。
「今日中に」「今週中に」という資金調達は無理としても、ある程度リミットが迫っている中で、よりスピーディに融資を受けることは可能です。
融資実行までのスピード感は「借金経営>無借金経営」と考えてください。
普段の取引がスピーディな調達につながる
なぜ借金経営の方が早く融資を受けられるのかといえば、普段から銀行と付き合いがあるからです。
銀行の融資審査は、書類審査や面談に時間をかけます。
普段から取引があり、融資を受けている銀行であれば、融資先の情報をある程度把握しており、全くのゼロから審査するわけではありません。
面談にしても、それまでの付き合いがあるだけに、スムーズに運ぶことも多いです。
さらに借金経営の場合、「普段から取引している」という強みを生かし、よりスピーディな融資を目指すこともできます。
経営者の心がけ次第で、銀行に接触する機会を増やし、融資スピードを高めることも可能です。
例えば試算表の提出。
借入先の銀行は、融資を依頼するかどうかに関係なく、決算のたびに決算書を求めます。
求められた決算書を提出するだけの会社は、銀行との接触は年に1回ということも多いです。
それではなかなか関係が深まりません。
そこで、試算表を作成し、それを提出するという形で接触するのです。
銀行としても、融資先の情報は多いほど良いと考えているため、試算表の提出を拒むことはありません。
試算表を毎月作成し、提出することを習慣にすれば、それだけでも銀行との接触は年12回に増えます。
経営の現況を細かく報告し、面談を重ねる中で資金調達の予定を伝えておけば、銀行はあらかじめ備えることができます。
融資担当者から融資課長へ、借入れの内容次第では支店長へと情報を共有し、稟議が円滑になることも多いです。
それまでに提出した試算表から融資を検討し、事前に「融資可」という判断が下っていたとしましょう。
その場合、予定通りに融資を受け付けた銀行は、事前の判断に基づいて稟議書を作成・回覧し、スピーディに対応できるものです。
このように、普段の心がけで融資スピードはアップします。
銀行から融資を受けているからこそ、それをきっかけとして「毎月の試算表を提出」といったアクションもできるわけです。
借金経営ならではの銀行交渉といえるでしょう。
無借金経営は融資に時間がかかる
無借金経営の会社も、銀行と何らかの形で取引しています。
法人口座を開設したり、仕入れ代金を振り込んだり、様々な形で銀行を利用していることでしょう。
問題は、無借金経営が銀行と融資取引をしていないことです。
無借金経営の会社が銀行融資を受ける場合、全くの新規融資となります。
銀行は無借金経営の会社について、融資の判断材料をほとんど持っていません。
したがって、銀行は多くの書類を要求し、念入りに審査していきます。
面談が複数回に及ぶこともあれば、銀行員が会社を訪問することもあります。
数週間で融資実行ということはほとんどなく、1ヶ月ないし1ヶ月以上の期間を要するのが普通です。
借金経営のように、普段の取引で融資スピードアップを図ることも不可能です。
無借金経営の会社が銀行に接触を図り、「〇月ごろに融資を受けたいのですが・・・」などと相談しても、それは順番が違います。
既存の融資取引を根拠に、事前に融資を打診するから効果的なのであって、全く融資取引がなければ融資を打診する根拠がありません。
新規融資を依頼し、時間をかけて融資を引き出し、取引を重ねる中で意識的な接触・事前の打診ということもあり得るのです。
無借金経営である以上、融資の依頼は全て新規となり、時間がかかるものと考えてください。
無借金経営を貫くには、このデメリットを踏まえて、早い段階で融資を申し込むことが大切です。
「業歴が短い→無借金」は危険
銀行が融資を判断する際、業歴も少なからず影響します。
業歴が短い会社は銀行融資を受けにくいものです。
借金ができないために、仕方なく無借金経営ということもよくあります。
しかし、業歴が短いからといって、無借金経営に甘んじるのは間違いです。
業歴と融資の関係
銀行は、業歴が長い会社ほど高く評価し、業歴が短い会社ほど低く評価する傾向があります。
これは、業歴が信用の裏付けになるためです。
業歴が長い会社は、「長きにわたって経営を続けてきた」ということ自体、信用につながります。
長く経営していく中で、売上が低迷したり、事業展開に行き詰まったり、資金繰りに悩んだりしたはずです。
様々な問題を解決しながら経営を続けてきた会社は、地力が違います。
地域の信頼や取引を重ねてきた顧客などが、その会社の底力となり、簡単にはつぶれることはありません。
簡単に経営が破綻しないということは、銀行にとって貸倒れリスクが低いことを意味します。
となれば、銀行が信用し、融資しやすいこともうなずけます。
同じように考えると、業歴が短い会社は信用が低いことが分かるでしょう。
業歴が短いほど、経営基盤は脆弱です。
業績が不安定であり、資産内容も乏しいのが普通です。
もちろん、開業以来、業績が良好というケースもないわけではありません。
しかし、業歴が短い場合、開業後の一時期好調であったというだけです。
その後はどうなるか分からず、早晩経営危機を迎えるかもしれません。
開業後、下手に好調を続けてきた経営者は、「経営なんて簡単なものだ」と慢心するものです。
その結果、過剰な売上主義に走り、増加運転資金や売掛金の増大と負担によって資金ショート…といったケースがよくみられます。
もっとも、大抵の会社は、開業後の一定期間は業績が安定せず、赤字になることも多いです。
銀行は、本業からの利益を返済原資とみなします。
赤字ということは利益がでておらず、返済原資がないということです。
これでは銀行も融資のしようがありません。
融資できなければ取引を深め、信頼を積んでいくことも困難です。
業歴が短い会社は、業績・財務や信用の問題から融資を受けにくいことが分かります。
無借金に甘んじていると…
したがって、業歴が短い会社は、「融資を受けられないから(自社が望んだものではないが)無借金経営」ということがよくあります。
また、「業歴が短く収益力が乏しい中で、返済負担を負いたくない」という理由から、無借金を良しとする経営者も少なくありません。
しかし、業歴が短いからといって、無借金に甘んじるのは危険です。
そもそも、ここまで解説してきた通り、無借金経営には多くのデメリットがあります。
業歴が短い時期は銀行融資に苦労しますが、いずれは融資を受け、無借金経営から抜け出すべきです。
そのことから目をそらし、業歴が短いことを理由に無借金に甘んじるのは、問題の先延ばしに過ぎません。
問題を先延ばしして無借金を続けるうちに、業歴は長くなっていきます。
会社は創業期から成長期に向かうわけです。
成長期の資金需要は、創業期よりも確実に膨らみます。
売上が伸び、運転資金が増加することを考えても、資金繰りの規模が大きくなることが分かるでしょう。
お金の流れは複雑になり、思わぬ出費に見舞われたり、まとまった資金が必要になったりすれば、どうしても無借金ではいられなくなります。
その時になってから銀行融資に取り組んでも、融資を取り付けるまでに資金繰りがショートするかもしれません。
上記でも述べた通り、新規融資には時間がかかります。
単に新規融資というだけではなく、「業歴が短い」という要素が加われば、融資交渉は難航するものと考えるべきです。
業歴が短い会社こそ借入が重要
業歴が短い会社こそ、無借金経営から早く抜け出すことを考えましょう。
銀行は融資を渋るでしょうが、融資以外の取引は可能です。
口座を開設するだけでも、自社と銀行の接点は作れます。
そこから徐々に取引を拡大し、最初は少額の短期借入からはじめ、少しずつ借入れを大きくしていくのです。
創業期のうちからこのように取り組んでおけば、やがて成長期を迎えるとき、必要な資金を借りやすくなります。
「無借金経営」ではなく「実質無借金経営」を目指そう
無借金経営は、メリットをはるかに上回るデメリットを抱えています。
では、無借金経営のメリットを享受しつつ、デメリットを回避できるとしたらどうでしょうか。
実質無借金経営ならば、それが可能です。
実質無借金経営とは
実質無借金経営とは、読んで字のごとく「実質的に無借金経営の状態」を意味します。
有利子負債を抱えているため無借金経営ではありませんが、実質的には無借金経営に等しい財務状況を維持しているということです。
仕組みは簡単です。
会社が抱えている有利子負債以上の手元資金を常に維持していれば、いつでも有利子負債を返済して無借金の状態になることができます。
これを、「有利子負債を抱えているものの、実質的には無借金経営に等しい」として、「実質無借金経営」と呼ぶのです。
ただし、有利子負債を返済した場合に、問題なく経営を維持できることが条件です。
例えば、有利子負債3000万円に対し、手元資金が3000万円では「実質無借金経営」とはいえません。
有利子負債を返済すれば手元資金がゼロになり、結局借入が必要になるからです。
したがって、「手元資金=有利子負債+α」の状態であれば、実質無借金経営といえます。
実質無借金経営と無借金経営の違い
実質無借金経営であれば、無借金経営のメリットを維持しつつ、デメリットを回避できます。
無借金経営のメリットとデメリットに照らして、簡単にみていきましょう。
無借金経営のメリットは維持
無借金経営のメリット 実質無借金経営の場合
返済負担がない 返済義務は負うものの、返済のための十分な資金を確保しているため、ほとんど負担にならない。
決算書の見栄えが良い 有利子負債を抱えているため自己資本比率の低下を招く。しかし、手元資金が潤沢なため自己資本比率は高い水準を維持でき、問題視されることはない。
資金繰り管理がラク 有利子負債の返済を含む資金繰りが必要であり、資金繰り管理が煩雑になる。しかし手元資金が豊富なため、資金不足が起こることはない。資金不足に対応しながらの資金繰り管理に比べて、却ってラクになることも多い。
外部の影響を受けにくい 銀行と付き合う中で何らかの影響を受ける可能性がある。ただし、実質無借金経営の会社は優良企業とみなされるため、銀行の優遇を受けやすい。銀行員からのアドバイスや好条件での融資提案など、好影響も期待できる。
廃業が容易 手元資金で有利子負債を返済してから廃業するため、何ら問題なし。
無借金経営のデメリットは回避
無借金経営のデメリット 実質無借金経営の場合
会社が成長できない 銀行から融資を受けながら経営を回すため、成長のための資金を調達しやすい。
銀行との関係を築けない 借入と返済を繰り返しながら実質無借金経営を続けるため、銀行との関係が深まりやすい。
資金繰り破綻リスクが高い 銀行との関係が良好であるため、経営悪化局面でも融資を受けられる可能性がある。
また、そもそも手元資金が潤沢である(少なくとも有利子負債以上の手元資金を確保している)ため、資金繰りを維持しやすい。
–
まとめ:実質無借金経営を目指そう!
日本では、無借金経営を目指す経営者が多く、色々なメリットがあることも事実です。
しかし、無借金経営はデメリットがあまりにも大きいため、理想的な状態とは言えません。
目指すべきは無借金経営ではなく、実質無借金経営です。
実質無借金経営を実現するためには、借入を抑えながら「手元資金=有利子負債+α」の状態を維持する必要があります。
無計画に借入していると、ただの借金経営になってしまいます。
有利子負債の増加を抑えるためにも、融資に頼らない資金調達方法を活用しましょう。
例えば、売掛金を売却するファクタリングならば、有利子負債の増加を避けながら現金を調達できます。
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