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無借金経営はデメリットが大きい!理想は「実質無借金経営」
日本の経営者には、根強い「無借金経営信仰」があります。
お金はできるだけ借りない方がよいという考え、借金ゼロの状態が最も好ましいと考える経営者が多いのです。
しかし、無借金経営には大きなデメリットがあり、倒産の原因になることも少なくありません。
この記事では、無借金経営のデメリットについて詳しく解説します。
無借金経営とは?
「無借金」とは「借金を全くしていない状態」のことであり、「無借金経営」とは、「借金を全くせずに経営している状態」を意味します。
まずは、無借金経営の基本的な意味、日本における無借金経営などについて考えていきましょう。
貸借対照表における「無借金」
決算書は財務三表とも呼ばれ、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」の3つを必ず作成します。
このうち貸借対照表は、会社の財務状況をまとめた資料です。
貸借対照表の上で考えることによって、無借金の意味がより鮮明になります。
貸借対照表を構成する要素は、以下の3つです。
- 現金や債権や不動産などの資産をまとめる「資産の部」
- 借入金などの負債をまとめる「負債の部」
- 資本金などの純資産をまとめる「純資産の部」
銀行やノンバンクからの借入、あるいは社債の発行などによって資金を調達すると、借入金の返済や社債の償還には利息が伴います。
「無借金」とは、このような利子付きの負債が、負債の部に全く計上されていない状態のことです。
あくまでも、「有利子負債がゼロ」という点がポイントです。
利息がつかない負債をいくら抱えていても、有利子負債がゼロであれば無借金経営といえます。
例えば、後日支払いの条件で取引すると、負債の部には買掛金や支払手形が計上されます。
しかし、買掛金や支払手形は有利子負債ではないため、無借金経営の基準には影響しません。
日本の経営者に多い「無借金志向」
「無借金経営」と聞くと、クリーンで好ましい経営をイメージする人も多いでしょう。
日本の経営者には「無借金志向」を持つ人が少なくありません。
このことは、具体的なデータからも明らかです。
東京商工リサーチが実施している「無借金企業調査」では、以下のような結果が出ています。
2020年9月期以降の財務データ2万948社のうち、無借金企業は3,278社で、無借金率は15.6%だった。コロナ前の前回調査時(2019年9月調査)の24.4%に比べると8.8ポイント低下した。
出典:出典:東京商工リサーチ「第2回全国無借金企業調査」
新型コロナウイルス感染症によって経済が大きく落ち込む以前は、4社に1社の割合で無借金経営をしており、経済悪化以降も6~7社に1社の割合で無借金経営を維持しているのです。
事業規模が小さい会社ほど無借金経営にこだわる傾向があります。
ただし、大企業が無借金経営に無関心かといえばそうでもなく、世界的な企業である任天堂は一貫して無借金経営です。
日本が世界に誇る一流企業が無借金経営を貫いていること、また中小企業の中には無借金経営を維持する会社が少なくないことから、「無借金経営が理想的であり、実現可能でもある」といった意識を持つ経営者が多いと考えられます。
無借金経営の5つのメリット
なぜ無借金経営を目指す経営者が多いのでしょうか。
それは、無借金経営には以下のようなメリットがあるからです。
1.返済負担がない
無借金経営にこだわる経営者のほとんどは、「返済負担がないこと」をメリットに挙げるでしょう。
上記の通り、無借金経営とは「有利子負債が全くない状態」を意味します。
銀行やノンバンクなどからお金を借りていない状態であり、当然ながら返済義務も全くありません。
資金繰りの負担になる要素は様々ですが、借入金の返済も大きな負担のひとつです。
借入条件によっては、借入金額と返済期間のバランスが取れていないこともあります。
大きな借入を短期間で返済する場合、毎回の返済額が大きくなり、資金繰り負担は高まります。
もちろん、銀行は返済を見込んで融資するため、返済負担がたちまち資金ショートを招くことは考えにくいです。
しかし、景気には波があり、自社の業績がいつ悪化しないとも限りません。
借入の時点では無理のない返済計画を立てていても、その後の景気悪化や業績悪化によって返済困難になることも考えられます。
このほか、返済期間だけではなく金利条件も重要です。
高金利で借り入れた場合、元金だけではなく支払利息の負担も重くなるため、資金繰り悪化の危険が高まります。
無借金経営であれば、このような心配はありません。
元金の返済も、利息の支払いも不要ですから、これらによって資金繰りが悪化したり、資金ショートの危機にさらされることがないのです。
借金していない気楽さから、苦しい局面でも冷静に判断しやすいこともメリットです。
2.決算書の見栄えが良くなる
無借金経営の会社は、貸借対照表の見栄えが良くなります。
負債の部に有利子負債がないため、見た目が良くなるのです。
もっとも、単に見た目だけではなく、財務指標も良好に保ちやすいです。
会社の財務安定性を測る重要な指標に「自己資本比率」があります。
自己資本比率は、返済の必要がない「自己資本」と、返済が必要な「他人資本」の比率です。
銀行やノンバンクからの借入は、返済が必要なため他人資本に含まれます。
他人資本が多い会社ほど自己資本比率が低下し、財務安定性が低いとみなされます。
自己資本比率が低ければ銀行からの評価も低くなり、借入のハードルも高くなるのが普通です。
無借金経営の会社は、貸借対照表に計上される有利子負債がゼロです。
当然ながら自己資本比率が高くなり、決算書の見栄えも良くなります。
3.資金繰りの管理が簡単になる
無借金経営は、資金繰りの管理が容易です。
借金しながら経営する場合、借入金の返済を織り込んで資金繰りを管理しなければなりません。
借入先が複数ある場合、借入先ごとに金利や返済額が異なるため、資金繰り計画が煩雑になります。
それぞれの借入金をしっかり把握しながら資金繰りしなければ、返済に遅れて信用を損なう可能性が高いです。
資金繰り計画を立て、将来的な資金不足が明らかになった場合には、計画的に資金を調達する必要があります。
これにより有利子負債が増え、資金繰り管理がさらに難しくなる…といった悪循環に陥る会社も少なくありません。
無借金経営の会社には、この心配がありません。
借入金の返済を考慮せず、その他の支払いだけを考えて資金繰りできます。
4.外部の影響を受けにくくなる
無借金経営の会社は、資金の調達先である外部機関の影響を受けにくいです。
無借金経営でなければ、銀行などから資金を調達する必要があり、それによって経営の自由度が損なわれることがあります。
例えば、銀行から資金を調達する際、銀行は資金使途を重視します。
資金使途に合理性を求められ、希望する借入の内容と資金使途の整合性も重要です。
資金使途が融資を左右する点を見ても、外部から影響を受けているといえます。
「銀行が納得するように借入金を使わなければならない」という縛りが生じているからです。
ほかにも、銀行は様々な形で経営に干渉してきます。
銀行が積極的に干渉してくることは少ないものの、以下のような話はよく聞きます。
- これまでは無担保・無保証で融資を受けられたが、支店長が変わった途端に支店の方針が変わり、担保・保証を求められることが増えた
- 銀行からの強い勧めで、新しい融資商品によって借り入れた。後々、自社に不利な条件であることに気が付いた
無借金経営であれば、銀行との付き合いも希薄です。
せいぜい、売掛金・買掛金の決済、法人口座や従業員口座の開設や、住宅ローンを検討している従業員の紹介といった付き合いに限られるでしょう。
銀行が経営に干渉してくるきっかけはほとんどなく、経営の自由度を損なうことはありません。
5.廃業が容易になる
多くの中小企業は、後継者不足に悩まされています。
後継者がいない場合、経営者は何らかの形で会社をたたむこととなります。
しかし、自分の代限りで廃業すると決めたとしても、勝手に廃業できるわけではありません。
廃業するためには、借入金を全て返済する必要があるからです。
会社の所有する資産を全て現金化しても、借入金を全額返済できない場合には、破産手続きを行います。
手元には一切お金を残すことはできず、債権者にも迷惑をかけてしまうため、後味の悪い引退になるでしょう。
無借金経営ならば、廃業の際に返済すべき借入金はゼロですから、容易に清算・廃業できます。
清算の結果、手元にお金を残せる可能性も高いです。
無借金経営の三大デメリット
日本には無借金経営を目指す経営者が多く、無借金経営には色々なメリットもあります。
しかし、無借金経営は必ずしも良いものではなく、むしろ世界的には「無借金経営は愚策」というのが標準的な感覚です。
なぜならば、無借金経営のメリットとデメリットを比較した場合、デメリットの方がはるかに大きいからです。
無借金経営の三大デメリットをみていきましょう。
1.会社が成長できなくなる
無借金経営の大きなデメリットは、会社が成長できなくなることです。
そもそも、会社は営利を目的とする組織です。
事業によって利益を上げること、そして可能な限り会社を成長させてどこまでも利益を高めていくことを目指します。
会社が成長を目指すとき、多額の資金需要が発生します。
製造業で考えてみましょう。
製造会社が成長するには、以下のように様々な施策が必要です。
- 販売ルート拡大(営業部門の人材確保、宣伝広告の拡大)
- 新工場の設立(土地の取得、建物の建築、設備の導入、製造部門の人材確保)
- 新製品開発(研究開発に携わる人材の確保、研究開発費の投入)
- 製造設備の導入(老朽化した設備の更新、新規設備の導入)
無借金経営を貫く場合、事業で得られた利益だけが頼りです。
よほど利益率が高く、事業規模が大きい会社でなければ、資金の捻出は困難でしょう。
また、利益だけで成長を目指しても、おそらくうまくいきません。
現代は、あらゆる物事がめまぐるしく変化する時代です。
時代の流れを上回るスピードで成長を続けなければ、うまくいっても現状維持、大抵の場合は衰退していきます。
もはや、本業の利益だけで成長できる時代ではないのです。
今後、時代の流れはさらに早くなっていくでしょう。
無借金経営にこだわる会社は、遅かれ早かれ淘汰される可能性が高いです。
2.銀行との関係を築けない
無借金経営であれば、銀行との付き合いを深めることはできません。
これも深刻なデメリットです。
銀行と付き合いを深めるには、融資を受けるほかないからです。
融資を受ける際、銀行は会社を詳しく審査し、経営者と会社のことを詳しく知ります。
審査に通れば融資実行に至りますが、ここがスタート地点です。
借りたお金を間違いなく返済していくことで、銀行は「約束を守る会社」と信頼します。
一度きりではなく、借入と返済を繰り返し、信用を積み重ねていくことが大切です。
その結果、銀行は積極的に融資してくれるようになります。
これが、「銀行との付き合いが深い」ということです。
無借金である以上、このような流れは一切なく、銀行と良い関係を築くことも不可能です。
これまで無借金経営だった会社が、「このままでは時代に取り残される」と危惧を抱いて成長を目指しても、果たして銀行はどれだけ支援してくれるでしょうか。
信用がほぼゼロの状態ですから、成長のために多額の融資を受けることは困難です。
ここから徐々に信用を築いていく必要があり、「借入⇒成長⇒さらに借入⇒さらに成長」という好循環が生まれるまでに長い時間を要します。
「これから成長を」と考えたときには、すでに手遅れかもしれません。
3.資金繰り破綻のリスクが高い
ここまでの流れから、すでにお気づきの方も多いでしょう。
無借金経営の会社は、資金繰り破綻のリスクが非常に高いです。
基本的に、無借金経営の会社は財務が安定しています。
財務が不安定であれば資金不足に陥ることも多く、経営者が無借金経営にこだわったところで借入は避けられません。
財務の安定性が高く、手元資金が潤沢だからこそ無借金経営が成り立っているのです。
しかし、ビジネスの世界は「一寸先は闇」です。
去年までは財務が安定していても、今年から急に財務が不安定になる、といったことが珍しくありません。
例えば、貸し倒れによって経営が傾くことがあります。
額面金額が大きい売掛金が回収不能に陥った場合、巨額の貸倒損失が発生します。
損失は手元資金から補填する必要があり、手元資金が乏しい会社は赤字補填資金の調達が必要です。
無借金経営の会社は、手元資金をある程度確保していますが、大型の貸し倒れを起こせば手元資金が大きく目減りし、財務は急激に悪化するでしょう。
コロナ禍のような景気悪化局面ならばなおさらです。
売上の悪化に歯止めがかからず、手元資金がじわじわと目減りしていく中、売掛先がバタバタと倒産して貸倒損失が膨らみ、自社も連鎖倒産…といった流れも十分に考えられます。
これまで無借金を貫き、銀行との関係を築いてこなかったのですから、銀行も支援してくれません。
銀行と関係を築いてきた会社でさえ、経営悪化局面では借入に苦労するのです。
無借金経営は、資金繰り破綻のリスクが極めて高いと考えるべきです。
「無借金経営」ではなく「実質無借金経営」を目指そう
無借金経営は、メリットをはるかに上回るデメリットを抱えています。
では、無借金経営のメリットを享受しつつ、デメリットを回避できるとしたらどうでしょうか。
実質無借金経営ならば、それが可能です。
実質無借金経営とは
実質無借金経営とは、読んで字のごとく「実質的に無借金経営の状態」を意味します。
有利子負債を抱えているため無借金経営ではありませんが、実質的には無借金経営に等しい財務状況を維持しているということです。
仕組みは簡単です。
会社が抱えている有利子負債以上の手元資金を常に維持していれば、いつでも有利子負債を返済して無借金の状態になることができます。
これを、「有利子負債を抱えているものの、実質的には無借金経営に等しい」として、「実質無借金経営」と呼ぶのです。
ただし、有利子負債を返済した場合に、問題なく経営を維持できることが条件です。
例えば、有利子負債3000万円に対し、手元資金が3000万円では「実質無借金経営」とはいえません。
有利子負債を返済すれば手元資金がゼロになり、結局借入が必要になるからです。
したがって、「手元資金=有利子負債+α」の状態であれば、実質無借金経営といえます。
実質無借金経営と無借金経営の違い
実質無借金経営であれば、無借金経営のメリットを維持しつつ、デメリットを回避できます。
無借金経営のメリットとデメリットに照らして、簡単にみていきましょう。
無借金経営のメリットは維持
無借金経営のメリット | 実質無借金経営の場合 |
返済負担がない | 返済義務は負うものの、返済のための十分な資金を確保しているため、ほとんど負担にならない。 |
決算書の見栄えが良い | 有利子負債を抱えているため自己資本比率の低下を招く。しかし、手元資金が潤沢なため自己資本比率は高い水準を維持でき、問題視されることはない。 |
資金繰り管理がラク | 有利子負債の返済を含む資金繰りが必要であり、資金繰り管理が煩雑になる。しかし手元資金が豊富なため、資金不足が起こることはない。資金不足に対応しながらの資金繰り管理に比べて、却ってラクになることも多い。 |
外部の影響を受けにくい | 銀行と付き合う中で何らかの影響を受ける可能性がある。ただし、実質無借金経営の会社は優良企業とみなされるため、銀行の優遇を受けやすい。銀行員からのアドバイスや好条件での融資提案など、好影響も期待できる。 |
廃業が容易 | 手元資金で有利子負債を返済してから廃業するため、何ら問題なし。 |
無借金経営のデメリットは回避
無借金経営のデメリット | 実質無借金経営の場合 |
会社が成長できない | 銀行から融資を受けながら経営を回すため、成長のための資金を調達しやすい。 |
銀行との関係を築けない | 借入と返済を繰り返しながら実質無借金経営を続けるため、銀行との関係が深まりやすい。 |
資金繰り破綻リスクが高い | 銀行との関係が良好であるため、経営悪化局面でも融資を受けられる可能性がある。 また、そもそも手元資金が潤沢である(少なくとも有利子負債以上の手元資金を確保している)ため、資金繰りを維持しやすい。 |
まとめ:実質無借金経営を目指そう!
日本では、無借金経営を目指す経営者が多く、色々なメリットがあることも事実です。
しかし、無借金経営はデメリットがあまりにも大きいため、理想的な状態とは言えません。
目指すべきは無借金経営ではなく、実質無借金経営です。
実質無借金経営を実現するためには、借入を抑えながら「手元資金=有利子負債+α」の状態を維持する必要があります。
無計画に借入していると、ただの借金経営になってしまいます。
有利子負債の増加を抑えるためにも、融資に頼らない資金調達方法を活用しましょう。
例えば、売掛金を売却するファクタリングならば、有利子負債の増加を避けながら現金を調達できます。
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